しし座
冥冥なる人間として
最後に残るのは
今週のしし座は、『虚子一人銀河と共に西へ行く』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、豊かな孤独の世界へと踏み込み、膨らませていこうとするような星回り。
自分のことを「虚子」とどこか突き放して書いているが、とにもかくにも「銀河と共に」行くのである。どこへ行くのか、それは「西へ」。すなわち、極楽浄土へ。しかもそれはあくまで自分一人で行くのだ。
作者は60になる年の談話のなかで「私は滅びるものは滅びるに任す、そんな考えが強いです。(…)だんだん人間というものは滅びてゆく、あとかたもなくなる、それでいいんだ。」(『俳談』)と述べていますが、掲句を詠んだのはその15年後。ちょうど疎開先から自宅へと帰ってきた直後でした。
これは孤独の詩心ともいうべき心境の詠出であり、「此道や行く人なしに秋の暮れ」と詠んだ芭蕉にしても「虚子一人」と言い切った虚子にしても、多くの弟子や知己に囲まれる人生ではあったものの最後の最後に残ったものは自己一人の世界だったのでしょう。俳句に限らず、絵画や彫刻の世界であれ、舞踊や宗教の世界であれ、何事かを極めようとする気概の強い人であればあるほど、孤独感というのもどうしても強くなるものです。
しかしそれは物寂しいだけの世界では決してなく、心の奥底のところで「あっ!」とかすかな声があがるのを喜びをもって聞き届けていく豊かな体験を伴っていたはず。
9月22日にしし座から数えて「受発信」を意味する3番目のてんびん座へ太陽が移っていく(秋分)ところから始まる今週のあなたもまた、心の生活の記録をはてしなく推し進めてみるといいでしょう。
孤独の中に溶け込んでいく
世間というものは、不可解な出来事やどう裁いていいか分からないような事件が起こると、「どうしてこうなった」とか「うかがい知れぬ心の闇」などと言って軽くフタをしてさっさと忘れてしまおうとしますが、今のあなたはそうした闇に向かって、むしろ人知れずとぼとぼとひとり歩き続けていけるかどうか、その覚悟のほどが問われていくでしょう。
誰かのために人を殺すにしろ、逆に自分を殺すにしろ、人は日々いろんなことを頭によぎらせながら生きているもの。しかし、そうした考えの多くは、本当に考えるべきことを考えないためのものであって、そういう安心安全に生きていくための明るい街灯やきらびやかな灯りのある方をあえて無視して、闇の中を歩ききっていったとき、なぜだかおかしくなっていた心や体が治っていたりするから不思議です。
逆に、自分の孤独や抱えた苦しみだけは他と比べて特別なんだと思い込んで、そこに囚われていくと、人はアッという間に自壊していきます。その意味で、今週のしし座は、人生の歩みにおいてしのび寄ってくる孤独を避けるのではなく、闇を受け入れ、親しみ、溶け込んでいくことを、ひとり楽しんでみるところから始めてみるといいかも知れません。
しし座の今週のキーワード
「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く死に死に死に死んで死の終わりに冥し」(空海、『秘蔵宝鑰』)