しし座
復讐するな
人として
今週のしし座は、獄死した運動家・金子文子のごとし。あるいは、みずからの苦しみの輪郭を何がしか言葉にして訴えかけていこうとするような星回り。
およそ100年前の関東大震災の直後に、治安警察法に基づく「予防検束」の名目で、内縁の夫である朴烈とともに検挙され、天皇制を否定したことで大逆罪で起訴され、有罪となり、その後恩赦が出るもそれを破り捨て、たった23歳の若さで自死した運動家・金子文子。
彼女は調書のなかで、次のように語っています。
私はかねて人間の平等ということを深く考えております。人間は人間として平等であらねばなりませぬ。そこには馬鹿もなければ、利口もない。強者もなければ、弱者もない。地上における自然的存在たる人間としての価値からいえば、すべての人間は完全に平等であり、したがってすべての人間は人間であるという、ただ一つの資格によって人間としての生活の権利を完全に、かつ平等に享受すべきはずのものであると信じております。(栗原康『狂い咲け、フリーダム―アナキズム・アンソロジ―』)
彼女は自身の年齢を聞かれて「年が幾つであろうと、私が今私自身の生活を生きて行くことには何の関係もありませんから」と答えると同時に、「宇宙の創造者はすなわち自己自身である」とまで述べました。今とは比べ物にならないほどの強大な暴力性を背後に帯びていたであろう官憲を相手に、ここまで激烈にみずからの言動を肯定する言葉を吐いてみせた人物は、当時に限らず近現代の日本において果たして幾人存在しえたでしょうか。
彼女は無戸籍児として生まれ、教育の代わりに壮絶な虐待を受けて育ち、自殺を考えるほど追い詰められたが、16歳の時に日本統治下の朝鮮で起こった独立運動を目撃し「私にすら権力への叛逆気分が起こり他人事と思えぬほどの感激が胸に湧く」と述べており、それが彼女をアナキストにさせた原動力となっていたのかも知れません。
同様に、20日にしし座から数えて「磁場」を意味する7番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの境遇と重ね、深い共感と愛情を抱けるような相手や対象に猛烈に惹きつけられていきやすいでしょう。
平等であることの難しさ
ユダヤ教においては神がシナイ山でモーセに語ったこととみなされ、律法の源泉として尊重されてきた旧約聖書の『レビ記』に次のような一節があります。
復讐しようとするな。同胞に恨みを抱くな。自分自身を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい。
内容明快であると同時に、非常に誤解されやすい箇所でもあり、後半の一文はむしろ「嫌いな隣人を差別するな」という方が真意に近いのではないでしょうか。というのも、ヘブライ語で「隣人」を意味する「レア」という言葉は、あくまで「友情」を意味するギリシャ語の「フィリア」に近いものであって、「性愛」のエロースとも「無償の愛」のアガペーとも異なるから。
つまり、その関係は上でも下でもなければ、えこひいきの対象でもない。あくまで対等な他者であり、それは価値観の相異に関わらずということ。ただ、たとえそうだとしても好き嫌いが生じてしまうのが人間でもありますから、嫌いな隣人に対しては少なくとも彼らを差別しないことで最低限の敬意は払おうと言っているのです。
今週のしし座もまた、みずから隠れた敵を作り出してかつ強大にしていくか、それとも少しでもそうした存在を無くしていくことができるかの分岐点を迎えていくことになるかも知れません。
しし座の今週のキーワード
人間は人間として平等であらねばなりませぬ。そこには馬鹿もなければ、利口もない。強者もなければ、弱者もない。