しし座
(一回お休み)
承認欲求の縛りを抜けて
今週のしし座は、福利厚生としての自己実現休暇制度のごとし。あるいは、誰に求めらたところでないものとしての人生や働き方の再設計を行っていこうとするような星回り。
自己実現休暇制度は2000年代に大阪ガスや西部ガスなど、複数の企業で実際に導入されたことで始まった制度で、例えばJCBのHPを見ると「学業、社会貢献、ワーキングホリデーなどを目的とした休業を申請できる制度を設けて」おり、「将来的な会社貢献に寄与する自己実現を支援する」ことが目的なのだと書かれています。
対象者の年齢制限や取得可能期間などは企業によって若干の違いがみられるものの、長期の進学やボランティア活動、資格取得のための勉強期間=休暇を2~4年を限度に認め、復帰後の規定年数の勤務を条件に毎月数万円の支援がなされるのだそう。
「自己実現」という言葉は、言わずと知れた米国の心理学者マズローによる人間の欲求五段階説の五段階目の、もっとも次元の高い自己の創造的な成長をはかる欲求を指すものであり、本来ならば他者からの賞賛や評価などとは無関係な、多分にストイックなものであるはず。ところが、上記の会社制度などに典型的に見られるように、昨今では承認欲求とほとんどセットの関係になってしまっています。
例えば、自己実現休暇制度を使って家でひたすらネトゲ三昧の生活を送りたいとか、何も考えずに好きな本を好きなだけ読みたいなどと言っても、「将来的な会社貢献に寄与する自己実現」と認めてもらえる可能性は低いでしょう。
それは極端な例だとしても、本来の自己実現の文脈に寄り添うならば、例えば既存のキャリアとは無関係に、SF長編小説を一篇書き上げたいとか、都会から離れた田舎で農作業に従事してみたいといったことでもいいはずです。
7月21日にしし座から数えて「反省」を意味する6番目のやぎ座で満月を形成していく今週のあなたもまた、純粋に自分がしたくてたまらないと感じられるような「創造的な成長」に時間を割いてみるべし。
「漫といふもの」
かつて宮沢賢治は、友人への書簡のなかで次のように自身の胸中を述べていました。
私のかういふ惨めな失敗はただもう今日の時代の一般の巨きな病、「漫」といふものの一支流に過(あやま)って身を加へたことに原因します。僅かばかりの才能とか、器量とか、身分とか財産とかいふものが何かじぶんのからだについたものででもあるかと思ひ、じぶんの仕事を卑しみ、同輩を嘲り、いまにどこからじぶんを所謂社会の高みへ引き上げに来るものがあるやうに思ひ……(『宮沢賢治全集<9> 書簡』)
賢治はこうして自分が陥っていた状態をあえて「漫の病」と呼んで、若い友人にそうならないよう諭してみせたのです。
SNSが発達した現代社会は、賢治の時代と比べ、はるかに「漫といふもの」に身を加えやすい環境にありますし、有名になることそのものが自己目的化している人があまりに多いように感じますが、「漫」とはどんなに気を付けていてもへばりついてくるものなのかも知れません。
その意味で今週のしし座もまた、賢治くらいの姿勢で自身の「漫の病」を見詰め直していきたいところです。
しし座の今週のキーワード
みずからの自慢・傲慢・散漫をひきしめるために