しし座
脳みそ☆タピオカ
かわいい至上主義
今週のしし座は、『わだつみに物の命のくらげかな』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、ただひたすらにゆるキャラとして舞台袖に突っ立っているような星回り。
「わだつみ」は海または海神をあらわす古語。そして「物の命」の“物”は「物の怪」とか「もののあわれ」と同じように、この世にさまざまな姿かたちで存在しているもの一般といったニュアンスなのではないかと思います。
そこに来ての「くらげ」というのは、言わばタピオカミルクティーの中のタピオカみたいなものと言ってしまっていいかも知れません。すなわち、世の中にたくさんある有象無象のひとつであり、確かに話題にのぼったり人気もあったりするが他にはない味というのは別にない代わりに寒天のような質感だけがそこにあり、本人としてはそれ以上でもそれ以下でもないという感じでそこらを浮かんでたゆたっている。
そもそも、海という底なしの世界からある時ふっと生み出されただけで、またいつ何どき無にかえってしまっても構わないといったような、背景としての大きな“虚構(うそ)”の上にかすかな“実体(ほんとう)”として自分はあるというような存在感覚がそこにあるのです。
そして、だからこそ存在神秘のゆらめきとしての「かわいい」を体現しているのだとも言えます(逆にほんとう一辺倒のものはかわいくないどころか大抵はひどく暴力的である)。
その意味で、7月12日に自分自身の星座であるしし座に金星(平和と調和)が入っていく今週のあなたもまた、カッコいいけどベタなストーリーを脱ぎさってタピオカのつぶつぶのごとくそこらに浮かんでみるといいでしょう。
何かが変わった?!
ある意味では以前と同じなのに、ある意味で変化している何かに気が付いていくといった現象について、哲学者のウィトゲンシュタインは「アスペクト(相貌、表情)の変化」と呼び、次のように述べていました。
周囲のものの非現実性の感覚。私は一度この感覚に襲われたことがある。そして、多くの人はこの感覚を、精神的な病が発症する前に感じる。すべてがなんとなく現実でないように感じられるのだ。しかしそれは、不明瞭に見える―あるいは、ぼやけて見える―といった感じではない。すべてはいつもと全く同様に見えるのである。(『ウィトゲンシュタイン全集 補巻1 心理学の哲学―1』)
ここで言われている「周囲のものの非現実性の感覚」とは、さながら『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』で、のび太たちがタイムマシンで妖怪にすっかり支配されパラレルワールドと化した現在世界に戻ってきた時のような、よそよそしい異物感にも似ていますが、にも関わらずのび太のママはあくまでママであることには変わりないのです。
タイムマシンに乗って7世紀という過去から現在に戻ってくる前と後では、確かに外見的な姿かたちは変わらないものの(実際には中身は妖怪にすり替わっている)、ただその「アスペクト(相貌、表情)」は微妙に変わった、とウィトゲンシュタインは表現してみせた訳ですが、真にゆるキャラ化するということもこうした変化に近いのかも知れません。
今週のしし座もまた、そうしたある種のゲシュタルト崩壊としての「アスペクト変化」を自分事として実感していくことになるかも知れません。
しし座の今週のキーワード
思考を一足飛びに超えること