しし座
回りまわっていくらし
暮らしを刻む
今週のしし座は、陸游の『小園(小さな菜園)』という漢詩のごとし。あるいは、心から価値を感じているものを、改めて少しずつ積み重ねていこうとしていくような星回り。
詩人・陸游が生きた今から800年ほど前の中国(南宋)は、中国の北半分が女真族によって占領されていた時代で、陸游は85年にわたる長い生涯にわたって、失なわれた国土の回復をねがい、そのことを歌い続けたことで、憂国の詩人や愛国詩人と呼ばれてきました。
しかし、彼がほんとうに愛していたのは、国という実体のない概念ではなく、あくまで彼が愛した農村生活の平穏であり、家族とのささやかな暮らしだったのかも知れません。
というのも、陸游は『三日詩を作らず』という詩を作るほど、毎日のように詩を作っていたのですが、その大半は江南の農村でのさまざまな行事や風俗を写した自身の暮らしぶりを平易な言葉であらわしたものだったから。例えば、彼が57歳の頃の作品である「小園(小さな菜園)」という詩(四首連作の第一首)を、書き下し文で引用します。
小園の煙草(えんそう)隣家に接し/桑柘(そうしゃ)陰陰として一径(いっけい)斜めなり/臥して陶詩を読みて未だ巻を終えざるに/又た微雨(びう)に乗じて去(ゆ)きて瓜を鋤(す)く
一海知義さんの訳によれば、「煙草」はタバコではなくもやのかかった草むらのことで、小さな菜園のもやにつつまれた草むらが、隣りの屋敷まで続いており、そこに一本の小道がななめに走っている。ねころんで陶淵明の詩を読んでいたが、一巻も読み終わらないうちに雨が小降りになってきたので、出かけていって瓜の畑をすきかえした、という訳です。
こうした晴耕雨読の日々が積み重なって「歳時記」となり、その平穏をおかすものへの怒りが「憂国の詩」となっていったのでしょう。それと同様に、6月21日にしし座から数えて「願い」を意味する12番目のかに座に太陽が入っていく(夏至)今週のあなたもまた、自分が心から大切に思っているものが何なのか、改めて浮き彫りになっていくはず。
漁師と海
陸地が海へと変わったらどうなるでしょうか。漁師の仕事は体力的にキツいものですが、特にもずくの養殖は最もキツい部類に入るそうで、朝7時には海に飛び込んで、長い時はお昼休みも取らずに、夕方の4時、5時まで一度も船に上がらないこともあるのだとか。
とはいえ、自然が相手の仕事ですから、つねにそういうスケジュールで固定されているということはなくて、集中的に仕事をする時と、「風が吹いてるな」とか「時化てるからあぶない」と判断した時は、ゆっくりできるのだそう。そういう意味ではメリハリがありますし、夫婦ふたりの時間だったり、やりたいことについて考えたり話したり動いたりする時間があるという点ではとても恵まれているのだとも言えます。
そういうリズムで仕事をしていると、おのずと資源を「獲る」のではなくて、やはり「耕す」ことに意識が向いて、海岸をなるべく自然の状態に維持するべく、サンゴを植えたり、子どもたちに関心を持ってもらう体験学習の催しを企画したり、NPOを立ち上げたりといった活動にも繋がっていく。そこでは、そういう風に見られたいからやるというのではなくて、純粋にやりたいからやっているし、自分の発した願いが回りまわって仕事へと変わっていく訳です。
その意味で、今週のしし座もまた、文明と自然のはざまで自分の願いのかたちを改めて整えていくべし。
しし座の今週のキーワード
一径斜めなり