しし座
屋根を架ける
恋猫や
今週のしし座は、『わが屋根をゆく恋猫は恋死ねや』(藤田湘子)という句のごとし。あるいは、普段の自分ならありえないような渾身の賭けに出ていこうとするような星回り。
春は猫たちにとって求愛の季節。彼らは昼となく夜となく狂おしく鳴きわめいていく訳ですが、それにしても掲句の「恋死ねや」というのは、どう解釈したらいいものか、いまいちよく分かりません。
「おいおい、そんな調子で来る日も来る日も鳴きつづけていたら、そのうち自分を見失ってしまうぞ」と心配しているのか、それとも、「お前たちの狂態にこれ以上黙ってじっと耐えていたら、こちらがダメになってしまう。もういっそ狂い死んでしまえ!」と必死の叫び声をあげているのか、句だけでは判断できないのです。
そもそも「恋い死ぬ」、つまり誰かを恋い焦がれて死んでしまうということなど、普通ならありえないでしょう。ただ考えようによっては、そのありえないような可能性に開かれた「恋猫」に、作者は自分自身を賭けてみたくなったのだ、という風にも解釈できます。
だとすれば、「わが屋根をゆく」というのも、自分でこしらえた自分の限界を超えていくという意味にもとれる。それはしょせん、「屋上屋を架す」ような、無駄な試みに終わるかもしれない。しかしそれでも、作者はそこに賭けてみたくなったのかも知れません。
4月21日にしし座から数えて「試みること」を意味する10番目のおうし座で木星と天王星の合(幸運な乱流)を迎えていく今週のあなたもまた、計画なしに企ててみることで、なまなましい勢いそのものに身を任せていくべし。
「人生ほど、生きる疲れを癒してくれるものは、ない」
この言葉は確か、作家でイタリア文学の翻訳者であった須賀敦子さんが、やはりイタリアの詩人の言葉としてどこかで紹介されていたものだったように思います。
長く生きていると、この言葉があったからこそ、何か大変なことがあるたびに、つらく大変なのは自分だけではない、と肩を抱かれるように思わせてくれる言葉と出会うことがありますが、個人的にはこれもそのうちの一つです。
それはたいてい、自分の心のなかにありながら、自分ではうまく表現することができずにいたものに言葉が与えられたような、それこそ、世界からの贈与と呼ぶべき体験でもあるのではないでしょうか。
そして、そうした心から必要としているにも関わらずお金で買ったり、取引で手に入れることのできないものとしての贈与について、誰も教えてくれませんし、だからこそ私たちは生きる傍らで詩や小説を読み、占いをし、掲句の恋猫のように時おり日常のやり取りの外へと出ていこうとするのかも知れません。その意味で、今週のしし座は、どれだけ自分がそうした贈与に開かれ得るかが問われていくはずです。
しし座の今週のキーワード
きみはどこまで歩いたとしても、魂の終端を見出すことはできないだろう。(ヘラクレイトス)