しし座
軽みと中庸
ぽかぽか感
今週のしし座は、『鶯や餅に糞する縁のさき』(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、見たまま感じたままを素直な言葉で表現していこうとするような星回り。
「鶯(うぐいす)」は蛙とともに、春になくものの代表。これは作者がその最晩年にたどりついた「軽み」の境地を端的にあらわした一句であり、それは芸術的な高みへの執着を断ち切って、誰にでもわかるような、ごく日常的な風景を軽く詠んでいくということに他なりません。
すなわち、小難しい理屈や高尚すぎる観念は捨て、古典や故事に寄りかかった句をつくったり、過度に風流ぶったりするのもやめよう。そうではなくて、あえて平俗な世界で柔らかい句を詠んでいこうじゃないかという訳です。
和歌には人間にしろ動物にしろ糞をするさまを詠む伝統など当然ないですし、ここでは定番である鶯の声について詠むのではなく、ぽかぽかと陽当たりのいい縁側に干してある餅に糞を落としていったことをあえて詠んでいる。だからこそ、掲句にはどこかのどかで、くつろいだ風情があり、うららかな春の一日の力の抜けた味わいが読者の心にも広がっていくのではないでしょうか。
3月20日にしし座から数えて「信念」を意味する9番目のおひつじ座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていく今週のあなたに求められていくのも、やはり心や視点を高いところに置きつつも、春の日差しのように周囲の人たちの心をあたためていく「ぽかぽか感」となっていくはず。
ほのぼの真理
安達哲の『バカ姉弟』という漫画作品があります。タイトル通り、この漫画は巣鴨の街で両親と離れて2人だけで暮らす姉の「おねい」と弟の「純一郎」という双子の幼児と、それを取り巻く住民たちのお話。彼ら姉弟は確かにバカというか天然なのですが、さりとてただの天然という訳でもなく、はなから悟りを得ていて、しかもそのことをすっかり忘れ去っているような存在として描かれています。
彼らを幼児と思って近づいてくる欲望まみれの大人たちは、ふだん社会で使っている方便やおためごかし、セコさ、忖度をそのまま彼らに繰り出してくるのですが、2人はそうした発言や行動の真意をいともやすやすと見抜いてしまう。しかも、声を荒げてそれを指摘したり、歯向かったりするのでなく、ただじっと見ているのだから、余計に恐ろしい。
例えば、双子をかわいがる母の友人・志津香さんが2人を叱ろうと、育児書で得た「まず褒めてから叱る」を忠実に実行してみせた時も、2人はピタリと動きを止めて志津香さんを見つめ、心のなかで「あやつっている…」とつぶやいてみせるのですが、こういう真似は常人にはなかなかできません。
それはなぜか。どうしたって関わる相手に期待しすぎてしまうか、少しも気を許してはならないと思い込むかのどちらかに偏りすぎてしまうから。姉弟のように、その中間にふんわりと留まっていられないのです。
今週のしし座もまた、そんな姉弟を見習って、世俗の中でどうしたらふんわりとしていられるかを探求してみるといいでしょう。
しし座の今週のキーワード
中庸にとどまる