しし座
焦らず床を踏み抜いて
カフカによる「罪」の定義
今週のしし座は、「性急な焦り」を解きほぐすなり。あるいは、みずからが犯している「ただ一つの大罪」を償っていこうとするような星回り。
『変身』や『城』などの不条理小説などで知られるプラハ生まれの作家フランツ・カフカは、小説だけでなくアフォリズム集も残していますが、その『罪、苦悩、希望、及び真実の道についての考察』というタイトルの通り、人間がなめうるあらゆる辛酸についてのカフカなりの言及が記されています。
たとえば<喜び>についても、彼の手にかかれば「この人生におけるさまざまな喜びは、生そのものの喜びではなくて、われわれがより高い生へと上昇することに対して抱く不安である」と、一気にそのイメージを書き換えられてしまうのです。
ただ、ここで注目しておきたいのは彼が<罪>について言及している箇所で、「人間のあらゆる過ちは、すべて焦りからきている。周到さをそうそうに放棄し、もっともらしい事柄をもっともらしく仕立ててみせる、性急な焦り」と述べた上で、次のように続けるのです。
人間には二つの主要な罪があり、他の罪はすべてこれらに由来する。すなわち焦りと投げやり。人間は、焦りのために楽園から追われ、投げやりのためにそこへ戻れない。が本当は、ただ一つの大罪、焦りがあるだけかもしれない。焦りのために楽園を追われ、焦りのために戻れないのだ
これは現代人全般に対しての警句とも言えますが、特に今のしし座にとっては耳の痛い言葉となるかも知れません。
2月29日にしし座から数えて「息継ぎ」を意味する8番目のうお座で土星と太陽と水星の3つの惑星が重なっていく今週のあなたもまた、慌ただしく目の前の仕事や目先の関心を追おうとするのではなく、いったんペースを落として、呼吸を整えていくよう心がけていくべし。
床下への想像力
例えば職人やアーティストなどは、年を取ることごとに技術的にはうまくなっていって安定感は出てくるのだけれど、逆に当初持っていた荒削りの魅力は失われていくという人がほとんどなのではないかと思います。
これはいかに表現者として成熟していくということが難しくて、ある程度のところで小さくまとまってしまうかという話でもあり、思想家の吉本隆明はそうした大部分の人について「床板の上で仕事をするようになる」と評していました。
逆に、例外的に成熟しえた表現者であった夏目漱石やドストエフスキーなど、年を追うごとに世界が深まっていった者たちは、絶えず床下のことを考えていて、いったんもうこれで安泰だなという「床上の世界」が出来上がっても、何度も何度も「床板を踏み抜いて」しまうのだと。
そして「床下の世界」を想像し板を踏み抜くことは、先の「性急な焦り」を手放していくということとも通底していくのではないでしょうか。その意味で今週のしし座もまた、何かと「一から出直す」という機会を自分で創っていけるかどうか、という局面を何かと迎えていきやすいでしょう。
しし座の今週のキーワード
成熟のきっかけ