しし座
自分事をすませていく
ある節目にて
今週のしし座は、「すむ」という言葉のごとし。あるいは、変に後に思いを残さぬように、個人的に努力してできることはとことんやりきっていこうとするような星回り。
13世紀のはじめ、中央で歌人として活躍した後、晩年になってこの世の無常と草庵での簡素で素朴な暮らしを描いた鴨長明は、『方丈記』の冒頭で「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶ泡沫(うたかた)は、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」と書き出したことでよく知られていますが、のちに世阿弥は能『養老』で、その最後の部分が「久しく澄める色とかや(澄んだ色をしていることよ)」と書き換えています。
この「すむ」という言葉について『岩波古語辞典』をひくと、「浮遊物が全体として沈んで静止し、気体や液体が透明になる意」をくんだ「澄む」の他に、「済む」のすむと、「住む」のすむとがあり、この3種類の「すむ」の意味を重ねて使っても不自然でない受け止め方をしてきたのだということが分かります。
「済む」は、「済みません」という言葉にも残っているように、片を付けたこと、つまり借りを返し、もはや何の負い目もないという含みが込められた言葉であり、「住む」はあちこち動き回るものが1つの所に落ち着き、定着することを言います。
その意味で、この「すむ」という言葉はまさに鴨長明の生き様そのままであり、12月20日にしし座から数えて「小さな死」を意味する8番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたにも、少なからず響くものがあるのではないでしょうか。
健忘のための整理
気がすむまでとことん何かをする体験というのも健忘のために必要な過程であって、記録のためにそうしている訳ではないということを、今週のあなたは意識していく必要があります。
実際、人間の健忘こそが大いに人生という旅の道行きを助けてくれることは多いのです。ただ一般的には、私たちは何かを「意志する」ことで人生を展開させていくのだと固く信じていますが、それは裏を返せば過ぎ去った過去に背を向け、歴史を無視して、ただ未来だけをまなざし、これまでの一切から切り離されたゼロからの出発点を創造しようという神のごとき所業の猿まねに他なりません。そうして無理に区切りをつけようとすることは、かえって余計な執着を生んでしまうことの方が多いのではないでしょうか。
あくまで、「切断」ではなく「整理」のために過去と向き合い、そこから感情を考察、教訓を引き出していくことができれば、人は自然とそれに飽きていくものです。
今週のしし座もまた、もしそんな風に心から思えるタイミングを迎えられたなら、既にもう次のサイクルに入っていく準備が完了しているのだと言っても過言ではないはずです。
しし座の今週のキーワード
難所であればあるほど、抜けるときはするりとくぐり抜けていく