しし座
で……また戦い始めた。
ある浮浪者の問答
今週のしし座は、「まだ何もかもやってみた訳じゃない」というセリフのごとし。あるいは、劇的な展開の欠如した人生に、それでもまだ手を尽くしていこうとするような星回り。
初出・初演から50年以上も経った今もなお、さまざまな言論人から繰り返し言及され、無数の解釈が生み出され続けている、サミュエル・ベケットによる不条理演劇の金字塔『ゴドーを待ちながら』には、ストーリーの起伏はまったくありません。
舞台はとある道端、今日を生き延びるのに必死なふたりの浮浪者ヴラジーミルとエストラゴンが、とにかくその人がくれば救われると信じているゴドーなる人物を待ち続ける2日間が描かれるのですが、それは「今日も他の日々と同じような一日であるか、むしろ他の日々とまったく同じということはない一日なのです」(M・フーコー)。
現代においても、何かと「新しい時代の到来」やそれに伴う「変革」ついて語られますが、おそらくそれはリアルタイムであるほど、劇的な形ではやってこないのではないでしょうか。では、それでも「平々凡々たる今日」を生き続けなければいけない私たちはどうすればいいのか。その指針となる描写が第一幕の冒頭に出てきます。
エストラゴンが道端に坐って、靴を片方、脱ごうとしている。ハアハア言いながら、夢中になって両手で引っ張る。力尽きてやめ、肩で息をつきながら休み、そしてまた始める。同じことの繰り返し。
ここでヴラジーミルが出てきて、次のようなやり取りをするのです。
エストラゴン (また諦めて)どうにもならん。
ヴラジーミル (がに股で、ぎくしゃっくと、小刻みな足どりで近づきながら)いや、そ
うかもしれん。(じっと立ち止まる)そんな考えに取りつかれちゃならん
と思ってわたしは、長いこと自分に言い聞かせてきたんだ。ヴラジーミル、
まあ考えてみろ、まだなにもかもやってみたわけじゃない。で……また戦
い始めた。
9月29日にしし座から数えて「信念」を意味する9番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、昨日とまったく同じではないが同じような1日である今日を、まだまだできることがあるんだと、自分に言い聞かせていきたいところです。
生の波うつセイロンベンケイ
主に熱帯の高地に原生する学名カランコエ・ピナータことセイロンベンケイは、葉から芽が出ることで有名で、アフリカやアラビア半島、東南アジア、沖縄の海岸などにも分布し、海洋民によって伝播された有史以前の帰化植物であろうと推測されています。
ベンケイというのは、あの「弁慶」から取られたもので、やはりたった1枚の葉からも芽吹く生命力の凄まじさに彼の面影を見たのでしょう。
海をこえ、葉のみの不思議な生命体となった折には、エアープランツに様変わりして、この世界の周縁に点在する次なる活動の場を身を以てうるおさんとする。そんなセイロンベンケイのいわば捨て身の強さは、今のしし座の人たちが心に思い描くべき指針としてもぴったりかも知れません。
今週のあなたもまた、いかなる場所であろうと、どんな無様な姿になろうと、命尽きるまで精いっぱい生き切ってやろうという決意を新たにしていくべし。
しし座の今週のキーワード
停滞と反復、偶然と拡張は紙一重