しし座
ちょ待てよ!
割り切らない勇気
今週のしし座は、『いわし雲ほとけ拝みしばかりにて』(河野友人)という句のごとし。あるいは、あっさり過去を消し去ろうとする世間の流れに駄々をこねていくような星回り。
故人への思いをどこかで引きずりつつ、緊張をいだいて訪れた葬儀場を後にしようとした時、ふと鰯雲を仰いでおもわず生死の不思議が心をよぎった、というのが句の大意でしょう。
ただ、「ばかりにて」というかすかな戸惑いを表した下五には、はやくも秋の訪れを告げ澄みはじめつつある天に対して、どこか異議申し立てをしたいような複雑な気持ちの揺らぎのようなものがうかがえます。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!まだ急にそんなにスンと澄んだ感じにはなれないよ。」
みたいなエクスキューズを、誰に言うでもなく、ただ宙に浮かべたままそこにしばらく置いておきたいような。そんな気分。いくら歳を重ねていたって、自分の気持ちをいつでも適切に切り替えたり、すぐに割り切ったりすることができるわけでなし。
ただ、大抵の人というのは、そういう都合の悪い感情や実感を“なかったこと”にして乗り切ったつもりになって、あとでしっぺ返しを喰らったりしているように思います。
24日にしし座から数えて「主観の表出」を意味する5番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたは、そういう大人の振る舞いに抗って、なんとなく尾を引く“感じ”や、割り切れない思いの方をこそ、大事にしていくべし。
「ネガティブ・ケイパビリティ」
25歳の若さで病没した19世紀前半のロマン派詩人ジョン・キーツは、近年は「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を初めて使い始めた人物としても知られています。もともとは詩人が身につけるべき能力として提唱されたこの能力について、キーツ自身は次のように述べています。
詩人はあらゆる存在の中で、最も非詩的である。というのも詩人はアイデンティティを持たないからだ。詩人は常にアイデンティティを求めながらも至らず、代わりに何か他の物体を満たす。神の衝動の産物である太陽と月、海、男と女などは詩的であり、変えられない属性を持っている。ところが、詩人は何も持たない。アイデンティティがない。確かに、神のあらゆる創造物の中で最も詩的でない。自己というものがないのだ。
つまり、アイデンティティを持たない詩人は、それゆえにアイデンティティを必死に模索する。それには不確かさや、神秘的なこと、疑惑ある状態の中に留まり続ける能力を必要としますが、キーツはそれをネガティブ・ケイパビリティ(負の能力)と呼んだのです。
今週のしし座もまた、確からしい結論にすぐさま飛びつく代わりに、その手前でまだ何か足りないものがあるという感覚を深めていくべし。
しし座の今週のキーワード
不確かで、疑惑ある、神秘