しし座
膨張と凝縮
推敲のコツ
今週のしし座は、『独り句の推敲をして遅き日を』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、「書かないで書く」境地へと自分をもっていこうとするような星回り。
弟子の十七回忌に発表された挨拶句。真宗大谷派の幹部僧であった弟子の面影を、「独り句の推敲をして」と詠んだわけですが、作者自身もその9日後に亡くなりました。
その意味で、掲句において独り句を推敲(すいこう)しつつ遅き日を過ごすひとの姿は、明るい春の夕暮れを浴びつつ、永久に句の世界で遊んでいる作者自身の姿にも重なっていくように思えます。
実際、ものを書いているうちに、書いている自分のなかに他の誰かが入り込んできてしまう、といったことはよくあることなのではないでしょうか。それはただただ、溢れるように書くということであり、言ってみれば「書かないで書く」ということ。
こういうことは「しっかり書く」とか、「私が書く」といった意識が強すぎると、まず起こりませんが、表現を練り上げる「推敲」の本質というのはどうやって「書かないで書く」という境地へ自分をもっていけるかというところにあるのではないでしょうか。
4月6日にしし座から数えて「書く」を意味する3番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、頑強な「私」を遅き日のなかに溶かし込んでいくような時間を大切にしてみるといいでしょう。
展かれる場所になる
日本では近代から現代に時代が進むにしたがって、「作家」という言い方で小説偏重の傾向が強まり、それに反比例するかのように詩人をそれっぽい美辞麗句を重ねるだけの「ポエマー」へと貶めてきました。
しかし一部の人々、例えば哲学者の池田晶子は、詩人とは「ことばと宇宙とが直結していることを本能的に察知している者を言う」と書き、さらに次のように続けてみせました。
(詩人の)感受性は宇宙大に膨張し、そしてそこに在るもろもろのものへと拡散し、それらを抱えて再びことばへと凝縮して来る。彼は、ことばと宇宙とが、そこで閃き、交換する場所なのだ。(『事象そのものへ!』)
奇妙に聞こえるかも知れませんが、彼女にとって「詩人」とは、変わった属性の人間というよりも、何ものかが生起してくる1つの「場所」なのです。しかも詩を詠むとは、そうして生まれてきた言葉をただ既存の世界へと定着させていくことを指す訳ではありません。
あることばがそこに孕む気配、またあることばが既に帯びた色調、それらをかけ合わせ混合し、無限のヴァリエーション、未だ「ない」宇宙が、そこに展かれる場所なのだ。
すなわち、詩作やその朗読とは、新たな宇宙をそこから展開していくことであり、そういう「場所」になりきってこそ、詩人と呼ばれるにふさわしいと考えていたのです。
今週のしし座もまた、どんな宇宙を切り開いていけるか、またどれだけ「場所」になりきれるかが問われていくことになるでしょう。
しし座の今週のキーワード
ことばと宇宙とが、そこで閃き、交換する場所