しし座
帰ろう帰ろう
土打つ一度きりの音
今週のしし座は、『榠樝(かりん)の実が土打つ一度きりの音』(村上鞆彦)という句のごとし。あるいは、普段なら受け流しがちな“今”に立ち戻っていこうとするような星回り。
榠樝(かりん)は中国原産のバラ科の高木で、晩秋には手のひらほどの大きさの黄色い果実をつけます(芳香を放つ実はのど飴やカリン酒などに利用される)。
俳句は五七五の十七音を基本としますが、掲句の場合、そのルールを破る2つの「破調」が用いられています。
まずはじめの五音が六音となる字余りで、あえて「が」を入れることで、思わず言及せざるを得なかったその場の臨場感や呼吸が伝わってくる。そして、七五のリズムで意味を切る代わりに、「土打つ一度きりの音」と結びまで一息で言い切らせることで、その出来事の一回性や重みを読者に体感させてくれる。
作者はここで強い確信犯的な狙いをもって、定型的なリズムや通常の意味の切れ目では捉えきれない榠樝の実が落ちた瞬間の生の“感じ”を伝えようとしている訳ですが、それは取りも直さず、いかに普段の私たちが生の現実を生きられていないかということの裏返しでもあるのではないでしょうか。
同様に、25日にしし座から数えて「生の基盤」を意味する4番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、今自分がこの瞬間に生きているという実感を深められるかということに、どれだけ真剣に取り組んでいけるかが問われていくはず。
Ample make this bed(広く創れこのふしどを)
『ソフィーの選択』という映画の主人公はアウシュビッツから解放されたポーランド人女性で、移住先のニューヨークで恋に落ちる。英語がまだうまくしゃべれない彼女に、男が読んであげた詩があった。それはエミリー・ディッキンソンという女性詩人の詩の一節だったのですが、彼女の心はその言葉に救われたのです。
Be its mattress straight,(ベットのマットはまっすぐに)
Be its pillow round(枕も丁寧にふっくらとさせなさい)
そうしてベッドを周到にメイクしなければならないほどに、世間の喧噪の誘惑は強く、私たちの精神を惑わせる。けれど、例え救いのない日々であっても、ベッド(眠り)を丁寧に整えて、深い眠りにつき、心静かに来るべき日を待とう。
それはまるで耳元で不意に聞こえてきた神様のささやきのようであり、それがたまたま男の口を借りて彼女のもとへと届いたことで、彼女はある種のメタモルフォーゼ(変態)を遂げてしまった訳です。そしてそういう一瞬や偶然は、誰の人生においても起こり得るものだと思います。
今週のしし座もまた、世間的な善とか正しさに従わなければという意識をパッと手放していくことになるかも知れません。
しし座の今週のキーワード
空っぽの器となること