しし座
生まれ変わっていくために
自力から他力への転換
今週のしし座は、「海亀の哭く夜か白い汀(みぎわ)は泛(う)く」(高島茂)という句のごとし。あるいは、いったん闇に沈みこむことでかえって光を鋭く感知していこうとするような星回り。
「哭く」とは声をあげて泣き叫ぶの意で、小鳥のように単にあいさつ代わりになく場合とは区別されます。海亀は5月から8月にかけて、夜に浜辺に上陸し、穴を掘って卵を産み落とすのですが、その際に眼の横にある器官から余分な塩水を排出する様をみて、昔から人びとはそこに産みの苦しみによる涙を見てきたのでしょう。
掲句では、作者は実際に目の前で海亀の産卵を見ているというよりも、どこか遠くから、もしかしたら想像の中でそうしたシーンを思い浮かべているのでしょう。産卵場所は波打ち際より少し上の海水がこないところが選ばれるのですが、真っ暗な夜の浜では、陸側より海のほうが明るく見え、子亀はこれを目印に海へ向かっていきます。
おそらく「白い汀」の「白」とは、そんな子亀の視点からみた光ある前途であり、新たな可能性が誕生してくる命の尊さを表しているのかも知れません。ただし、陸側が街灯などで明るく照らされるようになった最近は、子亀が海へたどり着けずに死んでしまうことが多く、海亀の個体数は年々減ってきているのだそうです。
7月28日にしし座から数えて「他力」を意味する7番目のみずがめ座に逆行中の木星が戻っていく今週のあなたもまた、自力でがむしゃらに頑張ろうとするのではなく、自らを導いてくれる働きに力を抜いて身をあずけていくべし。
水晶のような液の静かな行列
梶井基次郎の『桜の木の下には』という短編小説の「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」という有名な書き出しの一文は、どこかで目にしたことがある人も多いはずです。しかし、作者のこの奇妙な幻想は、おそらく美しいものの陰には汚いものや恐ろしいものがあるに違いないといった観想とは、また似て非なるものなのだと言えます。
「馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の樹は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を集めて、その液体を吸っている。何があんな花弁を作り、何があんな蕊を作っているのか、俺は毛根の吸い上げる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ。」
怜悧な観察眼に基づいた理系的な知性の持ち主でもあった作者らしい一文ですが、これはそのまま今のしし座の姿に対する描写のようでもあるように思います。つまり、ここでは生と死を仲立ちしている腐敗作用によって用意され、準備された養分を吸い取ることで、いのちが何かまったく別の存在様式へと生まれ変わっていこうとしているのであって、今週のあなたもまた、どこかそれに通じる自分の根源的なこころの動きに、生々しく触れていくことになりそうです。
しし座の今週のキーワード
浦島太郎伝説