しし座
数寄数寄、大数寄
春風胎蕩
今週のしし座は、「寝仲間に我をも入よ春山」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、春の風のようにのどかにどこかへ吹いてたゆたっていくような星回り。
作者がまだ江戸で独り暮らしをしていた42歳頃の作。下五の「春山(はるのやま)」は、故郷の北信濃の山容というより、どこか仕事でおもむいた先の山々から得ていた印象に、春の気分を添えて想像上で思い描いたのでしょう。
「寝仲間(ねなかま)」がごろごろしている部屋というのも、もちろん頭の中の空間で、もしかしたら夢に出てきたのかも知れません。
昼間から堂々とごろごろしている訳ですから、あまり広い部屋でないほうがいい。もちろん、あまり狭くても困りますが、その逆よりはいいはずです。
互いの気配がかすかに感じられるくらいの状態で、思い思いに寝転がっており、ぼそぼそしゃべっているのもいれば、眠っているのもいる。そのなかに入って、ごろりと寝る。
障子はあけっぴろげで、遠くに春の山が見える。そういう陶酔的な気分に浸るように入っていくという意味で、銭湯の湯舟につかるような句と言えます。
21日深夜にしし座から数えて「蒸発すること」を意味する12番目のかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、一時的にであれ自分をのんびり温和な春風のようにして「無」にしていくといいでしょう。
数寄(すき)
隠遁の内実は、閑居(のんびり暮らす)と道心(悟りを求める志)と数寄心(風流・風雅に心を寄せる)の3つに要約されると言われていますが、このうち最後の数寄心は、今週のしし座にとって特に大切になってくるのではないでしょうか。
それは例えば、「ひとり調べ、ひとり詠じて、みずから情を養うばかり」(鴨長明『方丈記』)といったスタイルの中で、この世界とのより直接的で自然なかかわりを取り戻していこう、というもの。逆にその正反対が、以下のような状態です。
「世にしたがへば、心、外の塵に奪はれて惑ひやすく、人に交われば、言葉よその聞きにしたがひて、さながら心にあらず。人に戯れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと定まれることなし。分別みだりに起こりて、得失やむ時なし。惑ひの上に酔へり。酔の中に夢をなす。」(吉田兼好『徒然草』)
「よその聞き」は他人がどう思うか、「分別」というのは、ああだろうか、こうだろうか、という思い悩みで、「得失」とは損得勘定のこと。忙しさに酔っているだけで、我を忘れてしまっているのだ、という最後の箇所は痛烈ですね。
今週のしし座は、古人たちにならいつつ、感性を耕して、日々の生活に余白をつくることを第一に考えていきたいところです。
今週のキーワード
気ままに、ゆるやかに