しし座
空白に雪が積もる
自分の話をするより他人の話を聞く方が面白い
今週のしし座の星回りは、意志の空白。あるいは、<スケッチ>という文章群を机の引き出しに溜めていた村上春樹のごとし。
1985年に刊行された村上春樹さんの短編集『回転木馬のデッド・ヒート』のまえがきには、「本当の小説を書くべきじゃなかったのか」という葛藤を抱えつつも、小説でもノン・フィクションでもない、村上さん本人が実際に見聞きした数々の話を登場人物が特定されないよう細部を改変していった断片的文章=スケッチをまとめるしか、この頃は手がなかったのだという本人の弁が記載されています。
村上さんはそうしたスケッチ群を「身よりのない孤児たち」に喩えるのですが、もし人がそこに何か奇妙な点や不自然な点を感じるのだとしたら、それは自分たちが作り出した影のようなものだからではないでしょうか。つまり、事実や人生というのは、私たちが能動的に創り出しているものなのではなくて、あくまでそう見えるだけなのだ、と。
我々が意志と称するある種の内在的な力の圧倒的に多くの部分じゃ、その発生と同時に失われてしまっているのに、我々はそれを認めることができず、その空白が我々の人生の様々な位相に奇妙で不自然な歪みをもたらすのだ。少なくとも僕はそう考えている。
22日にしし座から数えて「他人の話」を意味する7番目のみずがめ座の始まりで木星と土星の大会合が起きていく今のあなたもまた、夜の雪がただ静かに降り積もっていくように、そんな空白を生きていくといいでしょう。
愛称をつける
その広大豊穣なる大地に似て、ロシア人女性は強烈な母性本能をもつと言われていますが、ロシアを代表する劇作家であるチェーホフの妻オリガもまたそういう人でした。
ピンとこなければ、Wikipediaのチェーホフの項を参照してみて下さい。陰鬱なチェーホフの肩に寄り添うように快活な笑みを浮かべるオリガの姿を収めた写真がそこにあるはず。
わずか3年の結婚生活の末、チェーホフは44歳の若さで病死してしまいますが、「鷗(かもめ)」という妻につけた愛称が示す通り、彼にとって妻の存在はこの世の喜びであり希望であったのでしょう。
その意味で、彼がつけた愛称は、彼が残した作品と同じか、それ以上の価値が彼にとってはあったのかも知れません。ひるがえって、今のあなたには彼ほどに自由で哀しい呼び名を与えられる相手がどこにいるでしょうか?
今週のしし座は、そんな風に身近な他者を通じてその言葉の力が試されていくことになりそうです。
今週のキーワード
ただただ「カモメ!」