しし座
詩的な賭け事
難破船の水夫たち
今週のしし座は、投壜(とうだん)通信のごとし。あるいは、「あなた」への決死の呼びかけを行っていくような星回り。
投壜通信というのは、手紙を壜(びん)に詰めて栓をして波に投じる行為のことですが、これはもともと難破船の水夫たちが行ったとされる伝説的な振る舞いであり、自分が船とともに海の藻屑と消えるのが明らかな場合に、家族や知人へのメッセージを万に1つの可能性に託す賭けに等しい行為でした。
ルーマニア出身の詩人で、ナチ支配下の強制収容所生活を生き延びたパウル・ツェラン(両親はともに死亡)は、詩は投壜通信に他ならないとして、次のように述べています。
「詩はひとつの投壜通信であるのかもしれません。どこかに、どこかの岸に、ひょっとすれば心の岸に打ち寄せられるかもしれないという信念―必ずしもいつも確かな希望をもってではありませんが―のもとに、波に委ねられる投壜通信です。詩は、このようなあり方においてもまた、途上にあるのです。つまり詩は何かに向かって進んでいるのです。(中略)ひょっとすれば語りかけうる「あなた」、語りかけうる現実に向かってです。」(飯吉光夫『パウル・ツェラン: ことばの光跡』)
8月4日にしし座から数えて「呼びかけるべき対象」を意味する7番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、本当に語りかけたい相手がどこの誰なのかが明確になってくるにつれ、おのずと伝えたい内容も浮かび上がってくるはずです。
喪失と永遠のはざま
心から貴重だと思えるものや関係が、同時にひどく傷つきやすく、失われやすいということは、一般的なイメージとは異なり、実際には本当にいいことであるように思います。
なぜなら、傷つき、失われゆくということこそが、そのものが確かに存在していたということの一番のしるし(痕跡)となり、美しいものを美しいと、切実に感じさせてくれるから。
そして、そういうことに気付くためにも、やはり感性を使って生きている人には孤独な時間というものが絶対的に必要なのであり、その意味で水夫は難破が決まった時点でよき詩人となりえる条件をたちまち満たすのです。
今週のしし座は、この世という仮の宿は、行くも帰るもひとりなのだということを改めて感じていくでしょう。しかし、それはただ寂しい現実としてそうなのではなく、永遠なるものを受けとったり、それに返信したりしていくための契機であり、今またあなたにはそうした感覚を思い出すチャンスが訪れているのだと知ってください。
今週のキーワード
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず