しし座
種まきと稲妻
小さな自我と大きな自己
今週のしし座は、E・ヤコビーの『火の種撒き』という絵のごとし。あるいは、二つの世界のはざまで、伝えるべきことを伝えるべく、せっせと仕込みをしていくような星回り。
夕闇に覆われた街の空に、巨大な姿をした幽霊のごとき「種撒き男」が、火の粉のような種を撒いている絵である。
彼は街に炎をまいているが、それは一種の見えない火であり、街の方はそれに気付いていないし、火災も実際にはどこにも起こっていない。
一見するとつかみどころのない絵だが、深層心理学者のユングは「この絵はたがいに浸透し合いながら触れ合うことのない、二つの世界の懸隔(けんかく)を描いている」と見立てた。
なるほど、巨大な種撒き男は開けた野原と人間の住んでいる街のどちらにも火をまいているが、それは無意識と意識、野生と文明、身体と頭、女と男など、あらゆる二元性の隠喩であるかもしれず、撒かれた火は「焼き尽くす」ことで破壊的な浄化をもたらす議論の「口火」であるのかも知れない。
6月28日に「自己主張」を司る火星がしし座から数えて「影響力の拡張」を意味する9番目のおひつじ座へと移っていく今週のあなたもまた、傷つかない範囲内でのみ活動するのではなく、その外と内とのはざまに立っておのれの信念を伝えていきたいところ。
「稲妻が走る」
鉄血宰相として知られ、19世紀ドイツ一帯をまとめて統一を実現させたビスマルクには非常に興味深いエピソードがあり、それは家族との会話として記録された次のような言葉の中に端的に表れています。
「私はしばしば素早く強固な決断をしなければならない立場になったが、いつも私の中のもう一人の男が決断した。たいてい私はすぐあとによく考えて不安になったものだ。私は何度も喜んで引き返したかった。だが、決断はなされてしまったのだ! そして今日、思い出してみれば、自分の人生における最良の決断は私の中のもう一人の男がしたものだったことを、たぶん認めねばならない」(互盛央、『エスの系譜』)
なんと、鉄血宰相としての重要な判断は、自分が考えて決断したのではなく、「自分の中のもう一人の男」がしたと言っているのです。つまり、ビスマルクにおいては、「私が考えるich denke」という時の“考え”とは自分が意図的に案出したものではなくて、まるで「稲妻が走る(es blitzt)」ように自然と思い浮かび、時にはその内容に自分自身でも戸惑ってしまうような代物だったという訳です。
今週のあなたもまた、これまでのみずからの決断は「私(ich)」ではなく「それ(es)」がしたのだと自然に思えるくらい、意識を研ぎ澄ましていきたいところ。
今週のキーワード
二元性を超えていけ