しし座
シンジとブッダのはざまで
無明感情
今週のしし座は、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の沈黙と静止のごとし。あるいは、やかましい言葉よりも、美しい沈黙にこそ身を浸していくような星回り。
『エヴァ』のなかで特に象徴的だったのは、主人公の碇シンジと綾波レイが、生物兵器エヴァンゲリオンに搭乗するために地下基地に降りていく場面でした。
彼らはいっさい言葉を交わさず、ただひたすらに地下に降りていくのです。おそらく一分近く画面がまったく変化しないため、見ている人の中にはフリーズしたかと勘違いする人もいたと思います。
ただ、それがエレベーターの乗り込む場面と降りる場面にサンドイッチされていることで、はじめてその沈黙の深さに思い至ることになります。こうした果てしない下降感覚というのは、多くの現代人がそこはかとなく共有しているものであり、さらに昨今の状況下でますます深まってきているのではないでしょうか。
どこまでも降りていくことによって開かれてくるもの。それは、どうしようもないほどの無明感情であり、エヴァ的に言えば「堕天使の哀しみ」の感情なのだとも言えるかもしれません。
5月30日にしし座から数えて「言葉以前の営み」を意味する2番目のおとめ座で、上弦の月(動き出し)を迎えていく今週のあなたもまた、いたずらに言葉を重ねこねくり回すかわりに、不要不急な言葉はなるべく伏せて、それらの背後にある根本的な感覚をこそ深めていきたいところです。
無明の底へ突き抜けろ
精神科医の平井孝男は、かつて「宗教体験と心理療法」と題された討論において、無明感情とは「自分はどうにもならない」、「救われない」、「生まれてこなければよかった」、「生きていてもつらいだけ」、「誰からも普通扱いされない」、「普通の人間でなくなった」などといった苦悩の感情であると述べました。
それは言い換えると、どのような肯定性にも受容性にも到達することができず、どこにも自分の存在根拠・存在意義を見出すことのできない否定性の蟻地獄とも言えます。
考えてみれば、ブッダもまた無明感情の深さゆえに既存の宗教への信仰や苦行では救われなかったのであり、そのどうしようもない救われなさの徹底的な自覚こそがブッダの偉大さでもあったのかもしれません。
今週のあなたもまた、菩提樹の下で自己の無明と徹底的に向き合っていったブッダのことを、どこか頭の隅に置いて過ごしてみてほしいです。
今週のキーワード
ありえないほどの沈黙