しし座
あなたへ
「汝」とは誰か?
今週のしし座は、「夏シャツの汝が胸張れば釦飛ぶ」(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、無言の抑圧や同調圧力を弾き飛ばすかのように、自分の思いを伝えていこうとするような星回り。
一読して、「マンガかよ」とツッコまずにはいられない一句ですが、その背景には案外奥深い余韻が感じられてきます。
普通に生活していて、私たちがシャツの釦(ボタン)を飛ばすことなどまずないだろう。けれど、そんな光景を想像させるような「汝(なんじ)」=あなたの姿ならば、記憶の底に心当たりのひとりやふたりは潜んでいる気もしてくる。
汝は元々「なむち」という言葉で、「な」は二人称を表し、「むち」は漢字で「貴」と書き、神や人を尊んでという意味。
誰かが目の前にいればそうした古語の二人称をあえて使うことはないはずで、作者は尊さを感じる溌溂とした誰か、今はもう自分の日常から失われてしまった誰かの姿を、記憶の底から引っ張り出して、自らに前に呼び出そうとしていたのかもしれません。
23日(金)に太陽がおとめ座に入ることで、しし座の季節が終わり、勢いで誤魔化されない真の意味での「地力」が問われてきます。
まさに釦を弾き飛ばすほどに胸を張った尊い汝=太陽的存在の姿は、そこに自分を重ねていくべき大切なイメージとなっていくでしょう。
切なさと感情の強度
例えば、いにしえの時代の旅人にとって、旅とは故郷や知り合いやこれまでの暮らしとの別れであり、もう二度と再会できないかも知れないという“決定的な断絶”を意味していました。
だからこそ旅立ちは「切ない」ものであり、そこには確かなカタルシスがあった訳です。
ひるがえって、LINEやSNSを通じていつでも再会の機会を持ちえる現代社会では、目の前の誰かと「もう二度と会えないかもしれない」といったいじらしい緊張感は極限までゆるんでしまっています。
それに応じて「感情の強度」もますます薄まってしまっているように思います。
もう二度と会うことはないかもしれない。だからこそ、過去でも未来でもない、今ここの一点に集中する。そして、伝えるべき思いがあれば、それを言葉にして伝えていく。「汝」が今ここから失われてしまう前に…。
今週のしし座は、そうした切なさの感覚を大切に、一語一語を紡いていってほしいところです。
今週のキーワード
一期一会