しし座
終わり際のひと仕事
発心のきっかけ
今週のしし座は、朽ちてゆく恋人の死体を眺める男のごとし。あるいは、人生に大いなる新陳代謝をはかっていくような星回り。
平安時代に貴族であった大江定基は、三河守として任国に連れて行った女が病いにかかりついに帰らぬ人となった際、悲しみのあまり昼も夜もなく遺骸に寄り添っては生前のように声をかけ、唇を吸うことまでしたのですが、やがて「あさましき香り」が口から漂うようになって泣く泣く埋葬するに至ったのだそうです。
定基はこれをきっかけに「なぜ他ならぬ自分がこれほどまでに苦しまなければならないのか?」という思いに憑かれて出家し、寂照と名を変えて天台教学と密教を学び、やがて宋に渡海して紫衣と円通大師の号を賜り、そのまま帰国することなく現地で亡くなりました。
つまり、一介の中級貴族を円通大師たらしめたのが愛する人との死別であり、その残酷な運命を朽ちていく死体のなまなましい観取を通じて受け入れていった体験だった訳ですが、これはある意味で今のしし座にとっても必要なプロセスと言えるかも知れません。
7月3日に起こるかに座の新月は、しし座から数えて12番目の位置関係にあり、これは「叶わなかった願いの埋葬」や「大いなる循環」を意味します。来たるしし座の季節へ向け、この1年の振り返りと棚卸しを始めていくにはちょうどいい頃合いでしょう。
ある詩人の幻視
ランボーはある手紙の中で、「詩人は、その時代に、万人の魂のうちで目覚めつつある未知なものの量を、明らかにすることになるでしょう」と書いているが、自分の個人的幸福の追求よりもそういうある種の怖いもの見たさが打ち勝ってしまうところが、彼のような詩人の本質なのだと思います。
逆に、自分の経験した愛や苦悩、狂気をいかに「目覚めつつある未知なもの」にまで高められるかこそが、彼らの仕事の根底にあるハードルだったのでしょう。
ある意味で今週のあなたもまた、そんな詩人のハードルを越えていこうとしているのでしょう。
今週のキーワード
埋葬と弔い