ふたご座
想起して忘却を知る
手つきに宿る
今週のふたご座は、『柿むく手母のごとくに柿をむく』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、自分が欲していたものが一体どんなものであったのか、不意に浮き彫りになっていくような星回り。
自句自解にも「この女はおよそ母性型に遠いのだが」とあるように、黙って柿をむいていたのであろう「女」と、作者の母とはおそらく風貌から中身までまるきりタイプの異なる人間同士だったのでしょうが、不思議とその手つきだけは似ていたというのです。
時と場合によって私たちは本人の人格とは別個の、ひとつの独立した個性を、たとえば煙草を吸う仕草であったり、車のハンドル操作の仕方の中などに見出していったりする訳ですが、掲句では「柿をむく」その手つきの中に、ある種の「なつかしい魂」を再発見していったのです。
種やヘタのある柿は、食べやすい形に切って皿に盛るまでが地味にたいへんな果物ですから、「女」の手つきにもいつもとは一味違った繊細さや丁寧さが宿っていたはず。そうした手つきの微妙な表情がふいに作者に追憶を促し、子どもの頃に何気なく見ていた母の手つきを思い出させた。
何より、思い出したことでそうした手つきだけが立ち昇らせることのできる魂のあり様を、自分のなかの内なる子どもが欲していたことに気が付いたのではないでしょうか。
同様に10月24日にふたご座から数えて「往還的動き」を意味する3番目のしし座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、何げない場面でこそ「なつかしい魂」と再び相まみえる機会にめぐりあっていくことができるかも知れません。
寝台列車に乗って
ここで思い出される作品に、スタジオジブリのアニメ映画『おもひでぽろぽろ』があります。主人公である27歳のOLが夏期休暇を利用して義理の兄の実家の田舎へ農家のお手伝い体験をしに行くのですが、東京から田舎へと向かう寝台列車の中で、不意に小学5年生の頃の自分を思い出したことをきっかけに、何かが変わっていきます。
田舎が無いことで寂しい思いをしていたこと、少しの間だけ同級生だった「あべくん」の苦い記憶、淡い初恋の記憶、たった1度だけお父さんに殴られたこと。そんな思い出とともに田舎で過ごしていくうち、次第に主人公は農家の暮らしに魅かれていく―。
ここで言えることは、人はありのままの現実を即座に受け止められるほどに強くはないし、人の持つ「忘却」する機能というのは、神さまのくれたやさしさでもあるということです。
人は弱いからこそ、何度でも忘れ去っていた過去の思い出を取り戻し、その間に身に着けた知恵や縁を通して、過去を生き直していく。今週のふたご座もまた、日頃の意識の構えをゆるめて、忘れていた個人的記憶についてゆっくり呼び覚ましてみるといいでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
弱さと強さをいったりきたり