ふたご座
聖歌を求めて
重力と恩寵
今週のふたご座は、生活が詩になることを望む労働者のごとし。すなわち、みずからに生活にパンでもバターでもなく、美を、詩を、切実に求めていくような星回り。
20世紀前半に生きたユダヤ人女性思想家シモーヌ・ヴェイユは、労働の意味だけでなく、芸術の本質についても、この宇宙を統御している2つの力「重力と恩寵」という独自の用語によって、同名の断章集の中で何度も繰り返し考察していました(田辺保訳)。
彼女の言う「重力」とは、物体の重力にも似た“こころの惰性的で功利的な働き”のことであり、それに対して「恩寵(おんちょう)」とは、“こころの単なる自然な働きを超えたもの”を指し、「光」とも言い換えられています。
例えば、彼女は「グレゴリオ聖歌のひとつの旋律は、ひとりの殉教者の死と同じだけの証言」をしており、それは「重力のすることを、もう一度愛によってやり直す」という“二重の下降運動”こそ、「あらゆる芸術の鍵」なのだと述べた上で、次のように言い切るのです。
情熱的な音楽ファンが、背徳的な人間だということも大いにありうることである。だが、グレゴリオ聖歌を渇くように求めている人がそうだなんてことは、とても信じられない
彼女は、労働者たちには「その生活が詩になること」こそ必要なのであり、「ただ宗教だけが、この詩の源泉となることができる」こと、また「宗教ではなく、革命こそが民衆のアヘンである」と強調していました。
3月25日にふたご座から数えて「創造性の発揮」を意味する5番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、彼女の「労働者から詩が奪われていることこそ、あらゆる形での道徳的退廃の理由なのだ」といった指摘を自分事として受け止めていくべし。
生まれと作品の呼応
詩・小説・戯曲・短編・コラムなどに活動した20世紀アメリカの作家であるラングストン・ヒューズは、それまで白人作家によってばかり語られてきた中で、ようやく黒人自身の視点から普遍的な人間像を提示することに成功した稀有な人物でもありました。
彼はアフリカ系のみならず、ユダヤ系やネイティブ・アメリカンなどが混血した一家から生まれ、幼少期に両親が離婚しており、祖母から黒人の伝統口承文学を多く聴かされ育てられたのだと言います。そうした幼少期の経験は彼の作品にも色濃く反映されていますが、ここでは『助言』という詩を引用しておきたいと思います。
みんな、云っとくがな、
生れるってな、つらいし
死ぬってな、みすぼらしいよ――
んだから、掴まえろよ
ちっとばかし 愛するってのを
その間にな。(木島始・訳)
実際彼はたくさんの苦しみを経たのでしょう。ただ、この詩ではそれらを底に沈めたまま、言葉がスキっと冴えわたっています。
今週のふたご座もまた、自分が何を経験するために父母から命をあずかり、生を謳歌しているのか、改めてその思いを新たにしていくことがテーマとなっていくでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
恩寵を迎え入れるだけの渇望や真空状態に敏感になっていくこと