ふたご座
生活の中で何に力をもらい受けているか
交感のなかで残されていくもの
今週のふたご座は、『獣への愛を語りし春炉かな』(鈴木牛後)という句のごとし。あるいは、日々繰り返している生活の濃度があぶり出されていくような星回り。
「春炉」は、春になってもなんだかんだとほんのり火が残っていてあたたかい炉のこと。作者は酪農業を営んでおり、したがって掲句の「獣」も牛のことでしょう。
東京に暮らしていると、ペットの猫や犬に触れることはあっても、「獣」との接点はたまの動物園で柵やアクリル越しに向きあうぐらいしかありえません。すなわち、獣とは文明人にとってほとんど取り付く島もない圧倒的な「他者」であるはずですが、作者は自分で育て、慈しんで、まるで家族のように接している牛のことを「獣」と呼んでいる。
それは、いくら朝から晩まで牛にまみれて暮らしていても、どうしたって「自分は人間である」ということを意識させられてしまうがゆえの呼称なのかも知れません。その意味で、作者にとって俳句とは、日々の「獣」らとの交感のなかで、結果的に心の中に残っていく春炉の「あたたかみ」への呟きのようなものなのだと言えます。
2月14日にふたご座から数えて「日課/習慣」を意味する6番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの生活の中身の濃淡であったり、生活をつらぬくゆるぎない芯の有無を振り返り、確かめてみるといいでしょう。
トランスの間の旅
例えば、縄文時代中期の「蛇神(じゃしん)装飾土器」と呼ばれる土器があります。主に信州や甲州などの山岳地帯から多く出土する、取っ手部分が一目でマムシと分かる三角の頭をもった蛇の身体でつくられたこの土器は、蛇に憑かれた人間たちが日本列島の一部にかつて確かに存在し、集団現象をうむに至っていたことの紛れもない証拠物と言えます。
人間と蛇との関係は人類の起源とともに古く、蛇の中でも毒性の強いマムシの魔性は、人々をしてマムシを山の神ないし神の使いとして崇めさせるに足り、特に聖なる狂気を宿すシャーマンと繋がりがあるものとして畏敬されてきました。ここで国分直一氏の報告にある興味深い示唆を引用してみましょう。
ヘビ、特に毒蛇は不思議な力を持つとみられている。シャーマンがトランス(催眠状態)の間の旅を通して、地下のヘビに力をもらいうけて帰ってくるという例がある。台湾南部山地のパイワン族が、その持物に猛毒のヘビを彫刻することは、よく知られている
この「ヘビに力をもらいうける」という発想は、おそらく蛇神装飾土器が大量に作られた理由と同一であり、これもまた縄文人が獣との交感を生活の芯においていた証左なのではないでしょうか。
今週のふたご座もまた、自らの生活や心の支えとなるものを足もとから見つめ直していくことになるかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
力の源になるもの