ふたご座
ゆっくりと厳粛に
ゆたかな巣ごもり
今週のふたご座は、『台風情報ジムノペディを夜どほし掛け』(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、精神の奥行きを着実に押し広げていこうとするような星回り。
テレビやSNSに流れる台風情報を片目でとらえながら外出をとりやめ、長い夜を持て余すことなく過ごすには、さてどうしたものかと思案を巡らす。
普段作らないような料理をゆっくりと時間をかけて愉しむ。積んでおいた本の山の一角を切り崩す。特別なときのために取っておいたワインを空けてしまう。思いきりペットと遊んだり、これ以上ないほど丁寧にケアをほどこす。
瞬時にいくつかのアイデアが浮かんでくるものの、いったん台風がやってくると知ってしまうと、どうも浮き足立ってしまってそれを無視してまで何かに集中できる気がしない。確かにそんなとき、静かな愁いが身体にしみ込んでくるようなジムノペディはぴったりだ。
そうとなれば、何をするにもジムノペディの旋律ととともに過ごそう。風呂につかるにも、食事をするにも、煙草を吸うにも、日記をつけるにも、ふて寝するのにも……。
どんな過ごし方を選択したとしても、やってくる台風を邪魔することも、邪魔されることもないような旋律と一緒であれば、後に思い返したときによき物語となり、思い出となる。掲句の肝もまた、流行のポップスでも、大げさなクラッシックでもない、台風をゆたかに待ち受ける夜にちょうどいい塩梅の楽曲のチョイスにこそあったはず。
9月26日にふたご座から数えて「精神の糧」を意味する5番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、ゆっくりと、それでいて手を緩めることなく、精神を伸び広げていくべし。
サミュエル・ベケットの<部屋ごもり期>
アイルランド人の作家ベケットは、40歳になろうかという1946年頃、本人がのちに<部屋ごもり期>と呼んだ集中的な創作活動期に入り、それから数年のあいだに代表作『ゴドーを待ちながら』を含めた彼の業績の中でも最も優れた作品群を書き上げました。
彼はその時期の大半を、世間と隔絶した自室で過ごし、ひたすらおのれの内なる悪魔と向きあい、心の動きを探ろうとしたのだそうです。どうして彼はそうした特殊な生活を始めたのか。彼の評伝によれば、それはあるときふとひらめいて始まったのだと言います。
深夜にダブリンの港近くを散歩していた時、自分が嵐のさなかに、ふ頭の端に立っていることに彼は気付いた。そして、吹きすさぶ風と荒れ狂う水にはさまれて、とつぜん次の事実を悟った。
自分がそれまでの人生で、あるいは創作で必死に抑え込もうとしていた暗闇は、自分の目標とも一致せず、実際まるで注目されることもなかったけれど、じつはそれこそが創造的インスピレーションの源なのだ、と。
今週のふたご座もまた、かつてのベケットのように、これまで抑え込んできた魂の暗い側面こそが自分の最も優れた側面なのだということを受け入れていくことが、大きなテーマとなっていきそうです。
ふたご座の今週のキーワード
嵐と同期する