ふたご座
急がばまわれ
世相に反して
今週のふたご座は、「海に入ることを急がず春の川」(富安風生)という句のごとし。あるいは、できるだけ大きくゆったりと構えてみせるような星回り。
春になって雪が解け、水量が豊かになった河口付近の様子を詠った1句。きらきらとした春の日差しを浴びながら、流れはゆっくりと海へと流れ出していく。
水量が増えた川の流れは、飛ぶように過ぎてゆく時間の経過の早さや、転じて人生の華やいだ時期のはかなさなどを表す際に比喩的に使われることが多いですが、掲句ではむしろどことなくのどかな風景や余韻を残します。
それもこれも「春の川」を見て「海に入ることを急がず」と表現してみせた作者独自の深い安らぎの境地ゆえの作用と言えるでしょう。ITの急速な発展によって、情報が社会システムの中心になっただけでなく、情報の流れに過剰適応気味になっている現代人にとって、こうした作者の境地は世間と相対する上で実に対照的な姿勢を表しているように思います。
3月3日にふたご座から数えて「社会的な自己像」を意味する10番目のうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、作者の「海に入ることを急がず」の境地へと少しだけ姿勢を傾けてみるといいかも知れません。
村上春樹の『アフターダーク』の挿話
日が暮れてから夜が明けるまでの一晩のみじかい出来事を描いているこの作品の中に、次のような挿話が出てきます。少し長いですが引用してみましょう。
三人の若い兄弟が嵐に流され、ハワイのある島にたどり着いた。高い山が中央にそびえ立つ、美しい島。その晩、三人の夢の中に、神様が現れる。
『海岸に三つの岩があるから、その岩をそれぞれ転がして、好きなところへ行きなさい。どこまで行くかは自由だが、高い場所へ行くほど、世界を遠くまで見渡すことができる』
翌朝三人は言われた通り岩を転がし、進んだ。(中略)最初に、いちばん下の弟が止まった。「兄さんたち、俺はもうここでいいよ。ここなら魚も取れる」。続いて、次男が山の中腹で止まった。「兄さん、俺はもうここでいいよ。ここなら果実も豊富にある」。長男だけが、どんどん狭く険しくなる道をほとんど飲まず食わずで進み、とうとう山のてっぺんまで岩を押し上げた。長男は山の頂上から世界を眺めた。彼は、誰よりも遠くの世界を見渡すことができた――が、彼がたどり着いたその場所は、荒れ果て、水も食べ物も十分にない場所だった。だけど長男は後悔しなかった。彼は、世界を見渡すことができたから……。
この話から得られる教訓は、「何かを本当に知りたいと思ったら、人はそれに応じた代価を支払わなくてはならない」ということでしょうか。そして、今のあなたがなろうとしているのは、3兄弟のうちの誰にあたるでしょうか。もし迷っているのなら、成果を急がず、いま1度自分の中の好奇心に問いかけてみるべし。
ふたご座の今週のキーワード
ゆったりと自分会議