ふたご座
このせかいの“感じ”
素直になるために必要なもの
今週のふたご座は、「涅槃像尼に抱かれて拝みけり」(村上蛃魚)という句のごとし。あるいは、何度でも味わい直すべき“感じ”をふいに取り戻していくような星回り。
子供の時の記憶をふと思い出したのでしょう。まだ幼い時分に行ったお寺には尼がいて、その尼が自分を抱き上げてくれて壁一面にかかっているような涅槃像を拝ましてくれたというのです。
ただそれだけの事実を叙したに過ぎない、実に素朴な句ではあるのですが、きっとそれを追懐した作者のこころには、なにかあたたかいものが広がったのではないでしょうか。
作者が掲句で詠んだ記憶をどういう状況で思い出したのかは分かりません。しかし、人には折に触れて思い出してはそこから力をもらったり、救われたりするような記憶がひとつふたつあるものです。
あたかも大きな山を仰ぎみたような、そしてそうした存在がふと振り返ったときに、後ろについてきているような、そんな“感じ”を作者は気取った風でもなく、ひねくれたところもなく、ただ素直に出しているように思います。
19日にふたご座から数えて「記憶と反芻」を意味する12番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした微妙な調整を通して、素直な心持ちに戻っていくことでしょう。
占者のまなざし
20世紀前半にフランスで活動したマクルーシスは、斬新な技法で描かれた静物画や風景画で知られた一方で、挿絵や版画でも重要な作品を残しましたが、その中に16人のそれぞれ異なる占術を駆使する占い師を描いた「占者たち」という版画作品があります。
占者が見つめているのが、星であれ手のひらであれ、カードや小鳥やサイコロであれ、隠れた実態や不透明な未来を真剣に占おうとする者の視線は、知性と共感、魂のちからと心情のこまやかさといった、洞察力の二つの異なる原理に同時に従おうとしているように見えます。
おそらくこの作品自体は、自分にとってどの占者がフィットするか、自分がひいきにするべきはどんな相手なのかを、占術の内容や口コミなどといった先入観とは離れたところで、ただその視線の在り様によって選べるよう意図して作られたものなのでしょう。
しかし、いずれの占者にも共通しているのは、どこかに注意を凝らしていながら、ゆっくりしている、そんな特別な平静さをまとった空気感。おそらくは、掲句の尼もまた同じものをまとっていたはず。
その意味で、今週のふたご座もまた、そうした目に見えないものを扱う占者たちのように、いつもより一層深く落ち着いたまなざしを宿していきたいところです。
ふたご座の今週のキーワード
心の底を天から見下ろす