ふたご座
道の先へ連れ去られる
鱗めく
今週のふたご座は、「ヘッドライトに春雨の鱗めく」(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、花のつぼみを膨らませるようにみずからに栄養を与えていくような星回り。
「春雨(はるさめ)」は春に降る雨の中でも、こまやかに降りつづく雨のこと。ここでは春の柔らかな闇を照らすヘッドライトとともに、どこか艶のある季語として使われています。
一雨ごとに木の芽、花の芽がふくらみ生き物たちが動き出す春雨に濡れて、アスファルトまでもがなまめしく「鱗めく」。
それは客観的な観察の結果というより、作者のみた幻想であり、頭の中の妄想が夜の闇に溶けだして、夜道そのものが巨大な女体の一部のように動き出し、自分をどこか見知らぬところへと連れ去るようにも感じられたのかも知れません。
そんな一瞬の妄想のあと、夜道をひた走る自分に気付いて、ハンドルを握り直す。しかしその口元は固く結ばれて引き締められるどころか、どこか緩んでいるのではないでしょうか。
21日深夜にふたご座から数えて「体感」を意味する2番目のかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな風にみずからの妄想が溶けだして虚実の境に身を遊ばせてみるといいでしょう。
「異人の首を」
たとえば、見慣れたはずの自分の名前であってもふとした瞬間に幻視を引き起こし、漢字に込められた意味の向こう側へと意識を連れ去ってしまうことがあります。
試しに白川静の『字統』で「道」という字を引くと、「『道』という字は首を携えて道を行く意で、おそらく異族の首を携えて、外に通じる道を進むこと、すなわち除道の行為をいうものであろう」とあります。
この「除道」とは道を祓い進むことで、古代世界において異族の首が道路を祓うまじないとして非常に強い効力を持っていたことが伺えます。
ただここで言う「異人」とは、単に敵対部族というよりも、自分から見えなくなっていたけれど、この世界を成立させてくれていた不可欠な存在を指し、その意味で「異人の首を掲げる」という一見すると凄惨な表現は、そうしたかそけき兆しを見つけて拾い上げることの表れなのだとも言えます。
今週のふたご座もまた、まさにそれくらいの確かな実感を探しつつ、道を進んでいくことが求められていきそうです。
今週のキーワード
みずからにまじないをかける