ふたご座
失われたものへの遡及
会読という遊び
今週のふたご座は、江戸時代に行われていた「会読」のごとし。すなわち、改めて生活のなかに豊かな営みを取り戻していこうとするような星回り。
学問が立身出世と直結していた中国・朝鮮と違い、科挙のない近世日本では学問は実利をともなわず、それゆえおのずから遊戯的な性格を有していきました。それは机上の空論や言葉上のお遊びと断じるべきものではなく、むしろそこにこそ近世日本の知的世界を豊かにした秘密があったのではないかと思います。
具体的には、江戸時代には読書することがイコール学問をすることであり、特に一冊のテキストを車座になって対等な者同士で討論を行っていく形式を「会読」と呼びました。
前田勉の『江戸の読書会―会読の思想史』によれば、これはある種の“たのしみの「本読み会」”のようなものだったそうで、厳粛に形式をととのえて授業するというより、意見や疑問を持ち寄って談笑を交えながら勉強を進めるというようなイメージに近く、参加メンバーに感情のもつれのある者が混じっている時などは、しばしばケンカにもなったのだそうです。
ケンカのくだりはさすがというか、当時の「会読」は現代日本人が学びの場としてイメージするものよりずっとおおらかな場だったのでしょう。
31日にふたご座から数えて「忘却されたもの」を意味する12番目のおうし座で、「目覚め」の星である天王星とともに満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分だけでなく現代人が見失っていた“粋な営み”をそっと模索していくことがテーマとなっていきそうです。
寝台列車に乗って
スタジオジブリのアニメ映画『おもひでぽろぽろ』をご存知でしょうか。主人公である27歳のOLが夏期休暇を利用して義理の兄の実家の田舎へ農家のお手伝い体験をしに行くのですが、東京から田舎へと向かう寝台列車の中で、不意に小学5年生の頃の自分を思い出したことをきっかけに、何かが変わっていきます。
田舎が無いことで寂しい思いをしたこと、少しの間だけ同級生だった「あべくん」の苦い記憶、淡い初恋の記憶、たった一度だけお父さんに殴られたこと。そんな思い出とともに田舎で過ごしていくうちに、次第に主人公は農家の暮らしに魅かれていく―。
ここで言えることは、人はありのままの現実を即座に受け止められるほどに強くはないし、人の持つ「忘却」する機能というのは、神さまのくれたやさしさでもあるということです。人は弱いからこそ、何度でも忘れ去っていた過去の思い出を取り戻し、その間に身に着けた知恵や縁を通して、過去を生き直していく。
今週のふたご座は、日頃の意識の構えをゆるめて、歴史だけでなく忘れていた個人的記憶についてもじっくりと呼び覚ましてみるのも悪くないかも知れません。
今週のキーワード
弱さと強さをいったりきたり