ふたご座
ぱわーんぽわーんぽわぽわん
音の広がり
今週のふたご座は、「水音と虫の音と我が心音と」(西村和子)という句のごとし。あるいは、自分自身が外に向かって開かれていくのを実感していくような星回り。
近くでかすかに聞こえる水の音と、遠くから聞こえてくる虫の音、そして身の内の心臓の音とが響き続けている。
同じ「音」という字が一つの句の中で三度も出て来ることは非常に珍しく、通常は一句に同じ字を使うことは二つであっても避けられ嫌われるものですが、あえてそのタブーを犯しながらも見事に「おと」「ね」「おん」と読み方を変えることでさばき切り、成立させている句と言えます。
「水の音」というのが、例えばひとり浴室で浴びるシャワーの音なのか、それとも現実のものではない記憶の中のそれなのか、視覚的にどんな像を結ぶのかは定かではありませんが、ここでは聞こえてくる音だけに耳を傾けていきたいところ。
試しに、掲句をまずは三度ほど声に出して音読してみたい。繰り返していくうちに、心音が身体の表面を飛び越えて、次第に周囲へ広がっていくのが感じられてくるはず。音の世界では、人間と虫、生物/非生物の区別はずっと曖昧で、むしろ解消されていくのです。
10日にふたご座から数えて「クラスターの拡張」を意味する11番目のおひつじ座で火星が逆行に転じていく今週のあなたもまた、自分が何者であり、どこのクラスターに属するのかという認識を、より狭いところからどこまで広く遠くまで拡張していけるかが問われていくことでしょう。
脱・ハーモニー信仰
例えば西洋音楽の基礎を築いたバッハやグレゴリア聖歌のように、西洋の芸術というのはひとつひとつの音や意味を片っ端から組織してしまおうとするところがありますが、その点、インドのラーガ音楽は異なった音を同時に重ね合わせるハーモニー(和音)という考え方がなく、何もない「無」からほわーんと音が浮かんできて、まるで多島海のように一個一個が独立してそこに置かれていく印象を受けます。
そうして音がどこかからか浮かびあがってきては、また沈み込むように消えていくのです。
普通の人は、意味や文脈を失うまいと、ひとつ残らず橋をかけてがっちりとつなげていくために、エゴはますます強化され、煩悩は増し、執着も深まっていくのですが、今のあなたはそれとは逆のベクトルへと自らを促していこうとしているのではないでしょうか。
つまり、自分のアイデンティティだったり、誰かと比較や、社会からの評価といったものを「無」のなかにすっかり溶かし込んでいくことで、これまで獲得したものを惜しげもなくデリートしては、その行為を通して通常の“橋”とは異なるもっと別の通路や回路を開いていくような。
今週は目に見えるモノとはレイヤーの異なる、もっと根元のところで気配やエネルギーが循環していくイメージを大切にされてください。
今週のキーワード
ラーガの旋律