ふたご座
言葉を放つということ
蛍と人間
今週のふたご座は、「じゃんけんで負けて螢に生まれたの」(池田澄子)という句のごとし。あるいは、重たい内容をあえて明るく軽く扱ってみせていくこと。
いま在ることの不思議を子供のように何でもないように問いかけながら、口語で終わる下五の「生まれたの」にはどこか女言葉の情念性を感じさせる一句。
ともあれ、「螢に生まれた」理由が「じゃんけんで負け」たことにあるのなら、人が人として生まれた根拠は何だと言うのでしょうか。
螢のうちで活発に光るのはオスで、メスがそれに応えるように光ってみせたら求愛成功の合図になるのだそうですが、「負けて」すなわち不本意ながらそういう身分に甘んじているのだということが作者の本意ならば、人の女に生まれたのはただ求愛を受け入れるだけの受け身ではいたくないから。
また、そもそも求愛だなんだということが最大の関心事であらねばならないことに窮屈を感じたからかも知れません。
つまり、生きものの中でも人間だけはそうしたオスメスという固定的な役割のくびきから比較的自由にあれる存在であり、そうであるはずなのに実際には女であると色々と面倒がつきまとうことへの不満がその根底にあったのではないかと想像せずにはいられません。
27日にふたご座から数えて「自己浄化」を意味する6番目のさそり座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の内に溜めこんだ不満や怒りなどの毒を表に出しつつ、それを自分なりの言葉にしていきたいところです。
それ自身独立の存在となる言葉
奈良時代の語彙を収集した『時代別国語大辞典上代編』(三省堂)では「言霊」について、次のように解説しています。
「ことばに宿る霊。ことばに出して言ったことは、それ自身独立の存在となり、現実を左右すると考えられた。名に対する禁忌の心持とも共通する信仰・感覚である。神託や呪詞にこの霊力がひそむと考えられたのであろう。ことわざや歌もまた言霊のひそむところであり、それゆえに唱えられ、歌われたものと考えられる。」
「それ自身独立の存在」となった言葉は、あなたから独り歩きして、世界を経巡り、そこで出会った様々な人間や出来事と結託し、想像を超えた現実となってやがてあなたのもとへ戻ってきます。
そう考えると、言霊として放つ言葉をできるだけ軽くしておくべき理由もなんとなく分かるような気になってきます。やはり旅に出るときは、荷物はできるだけ少ない方がいい。
今週は、自分の子を旅へ立たせるぐらいのつもりで、自分の発する言葉を大切にしていくといいでしょう。
今週のキーワード
可愛い子には旅をさせよ