ふたご座
対話する喜び
「行ない」の3つの側面
今週のふたご座は、アレントの『人間の条件』のごとし。あるいは、自分自身の行為について哲学していくような星回り。
哲学とは、ある問題に対する唯一の解答を見つけることではなく、個において問いそのものを深めていくことにその本質があります。20世紀を代表する哲学者ハンナ・アレントの場合、それをうつろいやすい「思考」ではなく、実際の「行ない」に着目し重きを置くことで可能にしていきました。
「私たちがおこなっていること」すなわち環境に働きかけていく営みを、彼女は「労働(labor)」「仕事(work)」「活動(action)」の3つに分け、例えば台所でオムレツを作るのは「労働」で、タイプライターで作品を書くのは「仕事」、そして笛を吹いて演奏するのは「活動」といった風に区別し、それらが折り重なるように存在しているのだと考えたのです。
行ないはしばしば思考を裏切ります。高い理想を口では語っている人間が、他方でそれにまったく反する行動を取っていたりすることはそう珍しくない訳ですが、これは行ないがたぶん深層意識的なものだから。
彼女はそのことをよく分かっていたからこそ、自らの試みを「最も新しい経験と最も現代的な不安を背景にして、人間の条件を再検討すること」と述べたのではないでしょうか。
5月30日にふたご座から数えて「本質的な問いかけ」を意味する4番目のおとめ座で、上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、単に時代に流されるだけでなく、自分なりの言葉でものを考え続けていく足場をこそ確保していきたいところです。
「活動」としての哲学
アレントの『人間の条件』という本は、最後に「活動」をめぐって古代ローマ時代の政治家であり知識人であったカトーの言葉を引いて終わっています。
「なにもしないときこそ最も活動的であり、独りだけでいるときこそ、最も独りでない」
独りでありながらも、心の奥底の深いところで他者とつながっていくこと。それが「活動」の本質なのであり、「多数性」という人間の条件なのだと彼女は言うのです。
例えば、大きな人生の問いを抱えて、それを共有できる友人と議論したとします。これは生命の営みと直結する「労働」でも、なんらかの成果や人工物を作りだす「仕事」でもありませんが、「ひとりの人間」としての私が、物や事柄を介入させずに、純粋に誰かと深く対話したという点で「活動」なのであり、端的に言ってしまえば、哲学ということもまた「活動」に他ならないのだと言えます。
労働でもなく仕事でもない活動の時間をいかに持ち続けていけるか。そんなことを今週は念頭においてみるといいでしょう。
今週のキーワード
独りだけでいるときこそ、最も独りでない