ふたご座
詩人が胸に秘めるべき音は
名状しがたい消息
今週のふたご座は、「ふよふよ」というオノマトペのごとし。あるいは、透明な微細力をもって大勢の論理を超越していこうとするような星回り。
オノマトペは、時にどんなに工夫をこらした言葉よりも、「よく分からないけどなんか分かる」といったすとんと腑に落ちる感覚や、言葉が直接染み込んでくる感覚を引き起こしていくことがあります。
その中でも、風が草木を微かにそよがせる時の「そよそよ」とも、筋肉と何ら連動しない柔らかい肉が震えながら、その震えだけを波紋のように広げていく「ぷよぷよ」ともどこか異なる「ふよふよ」という言葉は、今週のふたご座をまさに象徴しているように思います。
ふよふよとは、例えばほとんど重さというものを欠いた小さな羽虫が微細に揺れ動くときの擬音語であり、はかなくて脆弱で、思わず後ずさりするような異質を秘めた、未知の振動体を予感させますが、おそらくそれに続く行動には、戦略性や駆け引きといったものはほとんど含まれないでしょう。
それと同様、27日(水)にふたご座から正反対の「世間への対応」を意味するいて座で新月を迎えていく今週は、自分でも不可解な名状しがたい消息を求めて、「ふよふよ」と世に対していきたいところです。
魂を襲う抜け感
「ふよふよ」は本来誰しもが心に秘めていながらも、魂がのけぞるような特別な瞬間に、不意に自分の内側から現われ出てくる“抜け感”のようものとも言えるかも知れません。
例えば、ドフトエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』で、理詰めの無神論者であることを自他ともに認める次兄イワンが、敬虔な信仰心の持ち主である末弟アリーシャに対して、次のようなことばを漏らすシーンがあります。
「生きたいよ。おれは理論に逆らってでも生きるんだ。たとえ事物の秩序を信じていないにせよ、おれにとっちゃ、春先に<芽を出す粘っこい若葉>が貴いんだよ。」
この不意打ちのような一言によって、読者は無神論者であるはずの彼の心の奥底に、実は生命的なものへの愛が潜んでいることに気付く訳ですが、これなどはまさに「ふよふよ」に他ならないでしょう。
最初から、篤く神の摂理とこの世界の秩序を信じているアリーシャの口からでなく、イワンの口から発せられているからこそ、「そよそよ」でも「ぷよぷよ」でもなく、「ふよふよ」なのだと思います。
できれば、そうした微細でありながら、全体を根底からゆるがすような心の動きを見逃さずにいられる人間でありたいものです。
今週のキーワード
思いがけない瞬間にそっと力を抜くこと