ふたご座
無常の調べ
不思議な抽象性
今週のふたご座は、「秋風や模様のちがふ皿二つ」(原石鼎)という句のごとし。あるいは、響きあい照応しあえる間柄の楽しみに、しみじみ感じ入っていくような星回り。
『底本原石鼎句集』によれば、この句には人妻との駆け落ちの失敗が背景にあり、引き離されるときに分けあった2つの皿のことだという。
作者は医者の家系の生まれで、大正や昭和のはじめの時代にあって、文芸を志すとは父母を裏切ることを意味していた。少なくとも、この句が作られた当時、作者が同じ模様の皿をセットで買えないほどの貧困生活を余儀なくされていたのは確かだろう。
しかし、そんな作者の事情とは切り離されたところで、掲句には時代を超えた不思議な抽象性があり、読む人は人生におけるさまざまな場面で、いろいろな「二つの皿」を思い浮かべることができる。
秋風の涼しさと皿の冷たさ、そしてこの世の無常とがそこでは見事に響きあってひとつの調和を奏でており、それが読む人の心をも呑み込み、つまらぬ世間の向こう側の世界へと誘うのである。
しょせんこの世は仮の宿。だからこそ、過去のあれこれや先の約束はひとまず脇に置いて、今あるハーモニーに遊ばれたし。
中秋の名月があけて、22日(日)のふたご座で迎える下弦の月へと移行していく今週は、そんな爽やかな諦めを心していきたいところ。
喪失と永遠のはざま
心から貴重だと思えるものが、同時にひどく傷つきやすいものであるということは、実際には本当にいいことであるように思います。
例えば、傷つき、失われゆくということこそが、生存していることの一番のしるしであり、美しいものを美しいと思える感受性を育んでくれる。
そして、そういうことに気付くためにも、やはり感性を使って生きていこうとする人には孤独な時間が必要なのです。
この世という仮の宿には、行くも帰るもひとりなのだということを今週は改めて感じていくでしょう。
しかし、それはただ寂しい現実としてそうなのではなく、永遠なるものを受けとっていくための契機であり、今またあなたにはそうした感覚を思い出すチャンスが訪れているのだと知ってください。
今週のキーワード
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。