ふたご座
感覚と速度
感覚的変化を味わう
今週のふたご座は、「見えさうな金木犀の香なりけり」(津川絵理子)という句のごとし。すなわち、これまで見えなかったものが見えてきたことを、心から楽しんでいくような星回り。
毎年、9月下旬から10月中旬くらいにかけて、街はそこはかとなく金木犀の薫りが漂います。道を歩いていくとき、自転車で通り抜けるとき、花の姿は見えなくても、金木犀が近くにあることをその香が教えてくれる。
作者もまた、まるで「見えさう」なほどに、鮮やかに金木犀の臨在を全身で感じたのでしょう。
あるいは、嗅覚がどこかで視覚につながって、一時的に共感覚的な現象がわが身に起こってきたのかもしれません。
やがて、そうして見えた色は音へと変わっていったり、何らかの肌感覚へと繋がっていくこともあるでしょう。
ひとつの感覚が別の感覚へとリンクしていくとき、そこには発見があり、体は驚きでときめき心躍っていくものですが、今週のあなたもまた、そうした感覚的な変化を通じて、新しい季節の訪れを感じとっていくことができるはずです。
生活の速度を変える
現代人は感覚が鈍くなったということがよく言われますが、ひとつには、交通インフラが人間の歩く速度を大幅に超えてしまっているということが本質にあるように思います。
その点、昔の人は皆とにかくよく歩きました。
個人的にも、子供の頃に親戚のおばさんの家へ遊びに行った際、ちょっとそこまで花火を見に行こうと言われ気軽な気持ちで付いていったら、2つの山を越えさせられて、花火を見る頃にはすっかりくたくたになってしまった思い出があります。
おそらく、地図の上で考えれば、実際そんなに大した距離ではなかったのだと思いますが、子供にとってはとてつもない旅路であり、山を越えるたびに世界がどんどん変わっていったのをよく覚えています。
それはおそらく、場所から場所への距離感は同じでも、高速移動やハイスピードに慣れ、電車やバスや自動車の速度で物事を感じたり考えたりするのが当たり前になってしまった現在の自分には見えてこない風景なのでしょう。
今週は、徒歩には徒歩なりの思考があるということを、どうか思い出してみて下さい。
そして普段とは異なる速度で身を動かしていくなかで、「迅速性」や「効率」といった都市的な価値観からこぼれ落ちていたものが、不意に目に飛び込んでくるはずです。
今週のキーワード
感覚地図の開拓