ふたご座
他なるものとの極私的関係
感化されるべくして感化される
今週のふたご座は、「泣て行くウエルテルに会ふ朧哉」(尾崎紅葉)という句のごとし。すなわち、いつも以上に他なるものを生々しく感じとっていくような星回り。
「ウエルテル」とは、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』の主人公。朧月夜の街路を歩いていたとき、かのウェルテルとすれ違ったと作者は言うのだ。
もちろんそれは朧が生み出した幻影に他ならない。しかし明治の作家というのは今以上に西洋文学に敏感だったのだろうし、その意味で、作者は朧をつうじてみずから見間違えにいたったのだと言える。
『若きウェルテルの悩み』は、ゲーテ自身の体験をもとに、恋する純情多感な青年ウェルテルの絶望的な片思い体験を作品化したものだが、あるいはそんな‟架空の人物”と直接触れ合えるほどに作者は「ウエルテル」を十分身近に感じていたということでもある。
あなたには、それほどまでに何か誰かに感化されたことはあるだろうか?
今週は、そうして<感化されること>を通してこれまでと世界が違って見えてくることもあるかもしれない。
日常を飛び越えたつながり
まんしゅうきつこさんの実録漫画『アル中ワンダーランド』の冒頭に、はるか上空を跳んでいる飛行機が自分にむかって「常識に囚われてはいけない/地球を大切に…」としゃべりかけてきたエピソードが描かれています。
それはそれで、アル中の恐ろしさと正常な日常からの逸脱ぶりを読者へ訴えかける秀逸な「仕掛け」になっています。
そう考えると、宇宙人にしろフェイクプレーンにしろ、他の誰でもない私のことをどこか日常から隔絶した世界にいる存在がそっと見守ってくれているんじゃないか、という想像自体はそれほど珍しいものではないように思います。
それは個人の脳内から神話的思考に翼がはえて、日常を飛び越えていく際に発生する人類共通の夢のひとつ。さまざまなディテールの違いはあれど、ウェルテルとの極私的な関係が結ばれていった尾崎紅葉の体験ともどこかで通底しているのではないでしょうか。
今週は、ひっそりこっそりと、自分なりの「他なるもの」との結びつきを再確認していくなかで、裸の自分へと開かれていくといいでしょう。
今週のキーワード
『アル中ワンダーランド』