やぎ座
最後の一線はいずこ?
2本の糸が
今週のやぎ座は、「恋」という字の旧字体のごとし。あるいは、下手な小細工に走るのでなく、そっと自分を変えることに勤しんでいくような星回り。
「変」という字は、かつて「變」と書きました。上半分は、「もつれる、ごちゃまぜにする、ひっくり返す」という意味を表し、下半分は動詞記号。すなわち、黒の裏は白、善の裏は悪といったように、裏表の関係にあるもののひっくり返しから、転じて「変わる」という意味になったのだそうです(藤堂明保『漢字語源辞典』)。
そこからさらに敷衍すると、「恋」の旧字体である「戀」とは、2本の糸がひとつの言葉をはさんで表裏をなすようなものと言えるのではないでしょうか。
すなわち、一方の糸から生じた言葉が、他方には裏返しの意味に伝わってしまうことで、2本の糸がもつれる。そして、いったんもつれると解くのは容易ではなく、言葉を重ねれば重ねるほどもつれにもつれていく。互いの思い込みがかけ合わさって、どうしてそうなるのかと、傍から見ていても不可解なほどに関係性がよじれ、曲がりくねっては、収拾がつかなくなってしまう。
では、いっそ言葉などなくなってしまった方がよいのか。むろん、ない方がよい。なしで済むのなら、それに越したことはないだろう。けれど、言葉の獲得以前に戻ることはもはやできない。他人であれ事実であれ、変えられないものを変えようとしてもがき苦しむのではなく、黙って自分が引き返しようもなく変わってしまったことを受け入れればいい。
10月24日にはやぎ座から数えて「決定的な変化」を意味する8番目の星座であるしし座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、ここまで読んでなんとなく思い浮かべていた相手との関係を「戀」だとするなら、もつれて当然なのだと諦めをつけてから、拒絶覚悟で相手を抱き寄せるか、黙って立ち去るかを選んでいくべし。
危機における生命の本能
災害や飢饉、疫病が猛威をふるって、無惨なまでの大量死が起きていた鎌倉時代に書かれた『方丈記』の中に次のような一節があります。
さりがたき妻、をとこ持ちたるものは、その思ひまさりて、かならず先立ちて死ぬ。その故は、我が身をば次にして、人をいたはしく思ふあひだに、まれまれ得たる食物をも、かれに譲るによりてなり。
どうしたって恋はしんどい。愛だなんだと言っているのも、キリストの昔からみんな苦しみにのたうち回っている人間ばかり。だから、誰かとどんなに親しく恋しい仲になっても、相手に食べものが譲れなくなったらこの一文を思い出して、きっぱり別れてしまうといい。それは単に恋の終わりである以上に、なにより生き死にの別れ道なのだから。
生きていればこそ、ほかの誰かと交われる。おいしいご飯も食べられるし、ああ綺麗だなと思える光景にも出会える。とことん気が済むまでいのちを味わえる。その意味で、今週のやぎ座もまた、誰かとのつながりを通して自分なりの危機への向き合い方を再確認させられていくはず。
やぎ座の今週のキーワード
もつれを解く