やぎ座
現実の再構成
新たな世間はどこから生まれる
今週のやぎ座は、『女湯もひとりの音の山の』(皆吉爽雨)という句のごとし。あるいは、できうる限りの「小さな世間」から再出発していこうとするような星回り。
「女湯も」とあるので、作者は旅先の温泉でただ1人静けさに浸っているときに、壁1枚へだてた向こう側にも、こちらと同じくただ1人らしい湯を流す音や桶の音が、かすかに響いてきたのでしょう。
やはり1人の静けさに浸る女体を脳裏に描きつつも、浴場にかそけく反響していく音が、かえってその後に訪れる静寂を深めていく。秋冷えの山の静寂は、深い霧や虫の音を伴って温泉宿をふかく包み込んでおり、その中でじっとしているとまるでこの浴場だけが世界のすべてであるかのような錯覚に陥ってしまいそうです。
ぎりぎりいる人間の複数性は担保されているので、これもまた世間と言えば世間であり、そうなると今度は壁一枚の距離感に互いに裸でいるにも関わらず、名前も顔も知らないまま恐らくはもう二度と会うこともないという縁の不思議さが際立っていく。
しかし、『聖書』において部族の内外から蔑まれ差別されていたサマリア人の女性が井戸のそばで水をくんでいるところに近づいていって、イエスが「I am He(私は神である)」と漏らし、この出来事がきっかけとなって神の福音がユダヤ人世界から異邦人の世界に広がっていったように、案外新たな「世間」というのはそれくらいのかそけき縁から生まれてくるものなのかも知れません。
10月3日にやぎ座から数えて「共同体」を意味する10番目のてんびん座で新月(種まき)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした弱い出会いやかそけき縁にこそ敏感になっていくといいでしょう。
フォックス姉妹事件
1848年、10代の2人の少女・フォックス姉妹は家の中でコツコツと何かを叩くような、はたまた家具が動くような物音(ラップ音)を耳にし、音の出所に向かって鳴らした指の音だったり、自分の名前を繰り返すよう働きかけ始め、やがて音と交信する暗号を編み出した末、音の正体を彼女たちが住んでいた家で数年前に殺された商人の霊であると結論づけました。これが死者と交信できると信じられた近代降霊術の一大ブームのきっかけだったのです。
彼女たちは後に反スピリチュアリズムの立場からお金儲けのためのインチキとして糾弾されましたが、いずれにせよここで大切なことは、私たちが認識している現実というのは正確な事実の集合体などでは決してなく、むしろ想像力の影響を大きく受けているということ(知覚は錯覚を必要とする)。
そして今週のやぎ座もまた、たとえ錯覚であったとしても想像上の導きに従っていくことで、何を欲しているのか曖昧なままでいるのでなく、「こうなって欲しい」という現実への期待をはっきりと発動させていくことにあるのです。
やぎ座の今週のキーワード
想像の共同体