やぎ座
笑う口の闇
彼らはにやりと笑って消えていく
今週のやぎ座は、『緑陰に三人の老婆わらへりき』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、現実や運命のままならなさにただただ圧倒されていくような星回り。
夏の強い日差しのもと、木陰で3人の老婆が笑っていたのだという。しかし、これは爽やかで健全な笑いというより、どこか人を喰ったような皮肉で陰湿な笑いであった。
このあまりにも有名な一句は、さんざん色んな人が言及してきたようにマクベスの魔女たち(彼女たちも3人だった)を連想させる。彼女たちもまた、おまじないのような、他の人には意味が分からないような言葉を交わしあって、闇に消えていった。
彼女たちは、いったんはマクベスに「やがては王様に、おなりになる方」と予言して主君を殺させておいて、彼が亡霊に悩まされ、反乱の影に脅えるようになると、「マクベスはけっして敗れることはない」などと吹き込んで油断させた結果、マクベスはまんまと討たれてしまった。
掲句の「三人の老婆」もまた、こうした魔女たちと同じく、人がどうしたって手玉にとったり思いのままにコントロールすることのかなわない運命の暗い側面に通じているように思われてならない(ギリシャ神話の運命の女神モイラも3人1組だった)。
彼らは漫画やドラマのヒロインのように、主人公の弱さや運命の残酷さをやさしい笑みでうけとめ、癒してくれることはまずない。ただにやりと笑って闇に消えゆくのみである。
5月23日にやぎ座から数えて「無自覚的運命」を意味する12番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、大海をさまよう小舟のようなみずからのちっぽけさに、改めてしみじみしていくことになるかも知れません。
何でもないような顔をして岐路はやってくる
人生には怪我で片目を失うとか、火事で家を失うといった決定的な転換を求められるような事態が起きることがある。例えばパスカルは、妻子を失って悲嘆の底にある男が、いま自分の賭けた馬がスタートしたというだけで数分間有頂天になっていた様を描き、そこから、人間の悲しみが一見深そうに見えてそのじつ底の浅いものであることを嘲笑う。
ただ、怪我や事故といった事態はたいてい唐突に、ないし運命的に訪れるがために、じつは案外割り切れやすい悲劇と言えるかも知れない。そうした場合、苦悩の方向も範囲もはっきりしているがために、打撃は直接な代わりに単純なものとなるからだ。
そしておそらく、人生には、それよりも目立たず、平穏でなだらかな形をまとっているものの、はるかに決定的な岐路が伏在している。こちらの方が悲劇と呼ぶにふさわしく、人は弱点を突かれて人間らしく悩むはず。
その意味で今週のやぎ座もまた、平穏さの覆いに隠されていた思いがけぬ“つまづきの石”に気が付いていくことになるかも知れない。
やぎ座の今週のキーワード
じわじわ、にやにや