やぎ座
予期せぬ方へ
創造性=強い受動性?
今週のやぎ座は、小島信夫の『馬』という小説の主人公のごとし。あるいは、強い受動性を発揮して物語にドライブをかかっていくような星回り。
この作品はとてもトンチキな小説なのですが、おはなしとしては主人公の「僕」がある日家に帰ると、庭に見慣れない材木が積まれていた、というところから始まります。
僕は脛をさすりさすりトキ子に詰問した。
「誰におかせてやったの」
「さあ、何といっていいかしら、誰にもおかせてやらないわ」
「すると、これはどういうことになるの」
「私が置かせたのよ」
「そう、誰が建てるの」
「そりゃ、あなたよ」
僕は今までトキ子には驚かされつづけであるが、自分の建てる家のことを自分で知らないということには、まったく闇夜に鼻の先きをつままれたような、一方的なかんじを受けざるを得ない。/それでは僕が建てるというのは、世の中にはふしぎなことがあるのだから分るとして、さて、誰が住むのだ、たぶん名義だけにして何かトキ子が企んでいるのかと思って、つきつめると、「住むのはあなたよ」と答え、そのさまが無邪気でさえある。」(『アメリカン・スクール』)
応答がめちゃくちゃですが、トキ子は大工の棟梁との会話の中で、新しい家を馬小屋にすることを受け容れてしまうというその後の流れもめちゃくちゃです。
ただ、この冒頭部分からして既にそうなのですが、この「僕」という語り手には強い受動性があって、それが逆に小説の推進力の強さにすり替わっている。あるいは、どこか神話や夢の中のように、どんどん予期せぬ流れが作られていったり、脇へとそれていくけもの道が垣間見えてきても、そこにあえて全力で乗っかっていく受け身感に満ち満ちていることで、何か大きな力が宿ったり、決して自分一人では生みだせないものを生みだすことができているように感じるのです。
4月21日にやぎ座から数えて「創造性」を意味する5番目のおうし座で木星と天王星の合(突然の旅路)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした強い受動性を発揮し、たとえ不条理だろうと悪夢的であろうと、目の前で何が起こっても全力でそれを受け止めていきたいところです。
イエス、イエスマン!
ジム・キャリー主演の映画『イエスマン』(2008)もまた、ある意味で主人公が強い受動性を発揮していくという点で先の小説と共通しています。
銀行員のカールはいつもいつもプライベートでも仕事でも答えは「NO」と言い、友人との付き合いやさまざまな勧誘・職場の個人融資の審査などあらゆることを断る生活を送っているのですが、そのくせ、数年前の離婚をいつまでも引きずっていたり、昇進話がポシャったりと、何かとうだつがあがりません。
そんな折に、知人から渡された冊子をきっかけに参加した怪しげな自己啓発セミナーで、今後決断を迫られた時に必ず「イエス」といえば人生が変わると伝えられ、ノリと勢いで、たまたまそれを実行してしまったところから、実際に人生が急展開していくのです。
もちろん、それだけでめでたしめでたしとなるほど現実は単純ではありませんが、停滞していた流れを加速させていくためのシンプルな行動原理がここに示されていることは確かでしょう。
今週のやぎ座もまた、普通なら「ノー」と断るであろう状況になった時ほど、ここで取り上げた2つの作品のことを思い出してみるべし。
やぎ座の今週のキーワード
世の中にはふしぎなことがあるのだから