やぎ座
生きる現場を重ねていくために
ホログラムとしての俳句
今週のやぎ座は、『三つ食へば葉三片や桜餅』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、当り前だと思っていたものにふと未視感がもたらされていくような星回り。
思わず「そんなの当り前じゃろがい」とツッコミを入れたくなるような句ですが、そんな当り前のことをぬけぬけと句に仕立ててみせる大胆さこそが、この句の他ならぬ魅力なのではないでしょうか。
しかもよく見れば、「三」という数字をくり返して、周期的な反復による言葉のリズム感をつくったところに、葉の「緑」に桜餅のほのかな「ピンク」を重ねるように句を結ぶという、感覚体験が立体的でホログラフィックなものになるような工夫がこらされていることにも気付かされます。
俳句をつくるには、辞書や歳時記からの知識ばかりでなく、どうしても季語の現場での体験やその積み重ねが必要となってきますが、それもこれも俳句がただの説明文などではなく、作り手側から読み手側へと手渡されていくある種の「ホログラム(三次元映像)」としてあるからでしょう。
さらに言えば、同じホログラムでも一度見れば十分なものもあれば、たまに思い返してみたくなるような、黙ってみているとどこか吸い込まれそうになるものもある訳ですが、掲句は明らかに後者の部類に入るはず。
4月9日にやぎ座から数えて「記憶の光景」を意味する4番目のおひつじ座で新月(皆既日食)を迎えていく今週のあなたもまた、何度見ても、何度会っても目新しく感じられる、そんなものにこそ身を寄せていきたいところです。
トランスの間の旅
縄文時代中期に作られていたとされる土器に、「蛇身(じゃしん)装飾土器」というものがあります。主に信州や甲州などの山岳地帯から多く出土する、取っ手部分を一目でマムシと分かる三角の頭をもった蛇の身体でつくったリアルで日本人離れした造形のこの縄文土器は、蛇に憑かれた人間たちが日本列島の一部にかつて確かに存在し、集団現象をうむに至っていたことの紛れもない証拠物と言えます。
人間と蛇との関係は人類の起源とともに古く、蛇の中でも毒性の強いマムシの魔性は、人々をしてマムシを山の神ないし神の使いとして崇めさせるに足り、特に聖なる狂気を宿すシャーマンと繋がりがあるものとして畏敬されてきました。ここで国分直一氏の報告にある興味深い示唆を引用しておきたい。
ヘビ、特に毒蛇は不思議な力を持つとみられている。シャーマンがトランス(催眠状態)の間の旅を通して、地下のヘビに力をもらいうけて帰ってくるという例がある。台湾南部山地のパイワン族が、その持物に猛毒のヘビを彫刻することは、よく知られている(『南島の古代文化』)
この「ヘビに力をもらいうける」という発想は、おそらくは蛇身装飾土器が大量に作られた理由と同じものであり、そして先に言及した何度も思い返してみたくなるホログラムという話にも通底しているのではないでしょうか。
今週のやぎ座もまた、自分の生きる地平を他でもない自分の手で確保していくために必要な手続きを、改めて求めていくことになりそうです。
やぎ座の今週のキーワード
生きる力の源となるものを