やぎ座
密なかかわりへ
浅瀬からますます遠ざかる
今週のやぎ座は、深海の深みや思いがけない潮の流れへと誘っていく空海の歩みのごとし。あるいは、改めて自身の人生に「密」を取り戻していこうとするような星回り。
「密」という言葉がコロナ禍で禁忌の対象とされていたことはまだ記憶に新しいですが、そもそもこれはわが国では古くから密教において“人間の理解を超えている行為”のことを指して用いられてきた言葉でした。例えば、身に印を結び、口に真言を唱え、意(こころ)に本尊を念ずることで、仏のはたらきに一致させていくことを「三密」と呼んだのです。
中でも、顕教に対する密教の優位を説いた空海は、初期の著作である『弁顕密二教論』において、次のように述べています。
仏の本来のあり方や、その境地をみずから享受するあり方においては、みずからの真理を味わい楽しむために、自らの眷属(分身やお伴)とともに、それぞれの身体・言葉・心の三つの秘密の境地をお説きになる。
顕教が誰にでも目に見え理解できる世界のみを扱うのに対し、密教では目に見えないものたちが躍動している不可思議な世界に足を踏み入れていきます。
そこでは、近代人のようにただ自然や物事を客観視するのではなく、天地の中ではたらき、また跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している神仏や精霊、悪霊や死者たちの世界にみずから参与していくべきとされており、そのための「三密」だった訳です。
もっと深く、もっと得体の知れない領域へ。1月26日にやぎ座から数えて「隠れたるもの」を意味する8番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、趣味であれ仕事であれ、そんな風に自身のコミットをディープな方へと本格化させていくことがテーマとなっていくでしょう。
「おもざし」の構造
やまとことばにおいては、「おもて」という言葉はときに能や雅楽の面(仮面)を意味し、ときにまた、顔ないし素顔を意味しますが、この「おもて」から派生して出てきたものに「おもざし」という言葉があります。
これは顔貌や顔つきを意味する語なのですが、眼を意味する「まな」に方向づけや志向性の「さし」(「指す」の変形)をくっつけた「まなざし」もまた「おもざし」とよく似ているように見えます。
しかし、この2つの語にはひとつ注目すべき違いがあり、それは「おもざし(顔の志向、顔つき)」がおのずから、それ自身のうちに双方向的に交錯する志向性を含むのに対して、「まなざし」には一方向的な志向性以上のものが見られないのです。
哲学者の坂部恵は、こうした「おもざし」という語が持っている構造について、「他者によって見られるものであると同時に、また、みずから見るものであり、さらには、おそらく、みずからを一個の他者として見るもの」と分析してみせましたが、これはまさに能の教えのなかにある「離見の見」という考え方に他なりません。
すなわち、真にすぐれた演者は、つねにみずからの姿かたちを、後方ないし背中の方からも見ることができなければならない、と。
同様に、今週のやぎ座もまた、そうした「おもて」と「うら」、見えるものと見えないものとが交錯していくような「おもざし」的構造を自身の関わりのうちに宿していくことができるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
双方向的で重層的な深まり