やぎ座
小さく縮こまってやしませんか
たこつぼ心筋症
今週のやぎ座は、映画『ブギーナイツ』のパターンのごとし。あるいは、自身と関わりのあるコミュニティのホラー性に気が付いていくような星回り。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『ブギーナイツ』(1997)は、70年代末のアメリカ西海岸を舞台に、斜陽産業化しつつあったポルノ映画業界の内幕を描いた作品です。
自意識過剰な落ちこぼれ青年だった主人公のエディは、ポルノ映画監督でプロデューサーのホーナーとの出会いをきっかけにポルノ男優に転身し、頭角を現していく。しかし、程なくしてスターとなったエディは慢心から無謀な独立を強行し、結果的にみずからの無力さを思い知らされ、仲間たちも思い通りいかずに世間から蔑まれ、拒絶されてしまいます。
精神的に傷つき、世間から落ちこぼれてしまった面々は、結局またホーナーのところへ舞い戻って、一種の疑似家族を形成し、そこから再生を図っていこうとするのですが、エディたちにとっては救済に見えた“古巣”は現実には安泰ではなく、ちょうど時代の移り変わりの中でポルノ業界そのものが時代遅れになっていく事実がさりげなく示されていく。
そうしてこの映画は見ている側に人生の苦みとしか言えない感覚をもたらすのですが、それをホラーの領域にまで引き上げているのが、登場人物の誰もが自分たちのセンスがもはや内輪でしか通用しない常識はずれなものであることにいま一つ気付いていない点であり、精神が奇形化した人間の微妙なおそろしさがここに立ち上がってくるのです。
13日にやぎ座から数えて「ネットワーク」を意味する11番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、密閉され濃密になった疑似家族関係=小宇宙に取り込まれないよう気を付けていくべし。
転身の要求
ここで思い出されるのは、1900年に刊行され、当時まだ真面目な研究の対象とはされていなかった夢について、これこそ無意識の世界に至る王道なのだと論じてみせたフロイトの『夢判断』の一節です。
読者はどうぞ私の諸関心を読者自身のものとされて、私と一緒になって私の生活の細々した事の中に分け入って戴きたい。なぜなら、夢の隠れた意味を知ろうとする興味は、断乎としてそういう転身を要求するものだからである。
ここでわざわざ「転身」という言葉が使われていることに注目されたい。そう、夢というのは少なからず、夢見た者や夢を語る者の「現実」に侵食し、絡み合い、時に現実そのものをギョッとするような仕方で書き換えてしまうものなのです。
例えば、夢がふだん目覚めている時の人生に対する一つの解釈なのだと分かってくるに従って、目覚めている時の人生もまた夢の解釈なのだと分かってくるように。
今週のやぎ座もまた、そんな「転身」を少なからず遂げていくことが求められているのだと言えるかもしれません。
やぎ座の今週のキーワード
悪夢から覚める