やぎ座
世におのれを放つ
「波だから、潮だから」
今週のやぎ座は、世間を越えた「潮」として。あるいは、自分自身へのエールを生活に取り込んでいこうとするような星回り。
いつの時代も女性には女性特有のよさがあり、それは逆も然りな訳で、日本では古来より器量のよさや頭脳の出来とも異なる「福々しさ」という基準が大事にされてきましたし、江戸時代には「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言い方で美しさを称える言葉も生まれましたが、時代ごとにそうしたことも必要なことなのではないでしょうか。
たとえば、戦後の混迷期に生きた女性の生活実感を描いた作品のひとつに詩人の永瀬清子の「窓から外を見ている女は」という詩があります。産業構造が大きく変わりつつあった当時、女性たちもいわゆる“農家の嫁”以外の多様な職業につくようになり、それに伴って多くの女性が新しい生き方を余儀なくされるなか、自由と不安とのはざまで揺れる日々を過ごしていった訳ですが、この詩はまさにそんな女性たちへ贈られた応援歌でした。
窓から外をみている女は、その窓をぬけ出なくてはならない。
日のあたる方へと、自由の方へと。
そして又 その部屋へ かえらなければならない。
なぜなら女は波だから、潮だから。
人間の作っている窓は そのたびに消えなければならない。
この「窓」とは女性たちを縛る古い社会のしきたりや、保守的な価値観のメタファーとも読めますし、何より「女」自身の中にある社会や文化などによって規定された固定観念なのではないでしょうか。興味深いのは、この詩では「女」はそうした「窓」を抜け出していくだけでなく、「潮」のように「かえらなければならない」と書かれている点です。ここでは、女性という性が根底に有している強さや自然が、世間や文明のつくりだす人工物をこえたスケール感を持つものとして捉えられているのです。
その意味で、6月26日にやぎ座から数えて「世との結びつき」を意味する10番目のてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、満ちては引いていく潮のように自分が「窓」を突き抜けてどこへかえっていこうとしているのかをしかと見極めてみるといいでしょう。
「言向け和す(ことむけやわす)」
『古事記』には、「語問(ことと)ひし 磐根 樹根立(きねたち) 草の片葉をも語止めて」という定型的に現れる表現が登場しますが、これはそもそも岩や木の根や草や葉っぱのすべてが言葉を発していたという状況があって、それらが言葉を発することをやめた後に、「天孫降臨」が実現したということが示唆されています。
そして、そうした言語的統一の位相へと事態を差し向けることを「言向け和す」と言ったそうなのですが、これは一見すると何を言っているのかよく分からない草木に対して一方的に圧力をかけて従わせるのではなく、ある種のネゴシエーションを通じて相手を和らげていこうとする態度が根本にあり、そうした「言向け和す」ための人間の試みこそ歌や歌謡の原初の姿だったのです。
当然、そうした試みはつねに成功した訳ではなく、むしろ失敗することの方が多かったのではないでしょうか。それでも、そうした歌こそが国の基礎であり、古代において一国の主たるものはみな歌を歌うことでおのれの責任を果たしたのだと言えます。
その意味で、今週のやぎ座もまた、日ごろなかなか言葉にならない思いをどれくらい言葉にして、伝えるべき相手に伝えていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
原初的な歌謡の役割