やぎ座
HEN
制限によって強められた想いの果て
今週のやぎ座は、『紅梅や見ぬ恋作る玉すだれ』(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、秘めてきた本音や心情が身体から飛び出していくような星回り。
とある家のすだれの下りた部屋の前庭に、紅い梅の花が咲き誇っている。その美しさは、どこかすだれの奥の女性の姿を彷彿とさせ、実際に姿を見たことはないにも関わらず、まだ見ぬその人への恋心が募っていく……。
と、なんだか恋に恋する思春期の学生のような心情が率直に詠まれているのですが、この時作者は46歳。江戸時代の当時ではもはや老年期にあたる年齢ですが、だからこそ変に世間に構えず、肩の力を抜いてこういう句を詠めたという面もあったのでしょう。
「玉すだれ」は現代のインテリアであればカーテンやブラインドにあたりますが、心理的に隔たりを感じさせるものという意味では、Vtuberのキャラだったり、SNS上のアイコンだったり、マスクだったり、ソーシャルディスタンスを強いるコロナ禍そのものにも置き換えられるかも知れません。
いずれにせよ、制限されることによって逆に強められるものがあるという点では、今のやぎ座にも通じるところがあるはず。2月6日にやぎ座から数えて「熟成」を意味する8番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな掲句を詠んだ作者と同様、自分の中でこれまで寝かせてきた想いを何かの拍子に吐露していくことになりそうです。
思い込みのもつれとして「恋」
「変」の旧字体に「變」という字があり、漢字語源辞典によれば、上部の「䜌」はもつれた糸(絲)を分けようとする様を表わし、下部の「攴」は不安定で変わりやすい様を表わしており、そしてこれと同じ構成の字に「戀」があります。
つまり、「戀(恋)」とは、より分けるのが難しいもつれた糸=言葉と心がひもづいていくことで、ああでもないこうでもないとすっきりしない状態が煮詰まっていくプロセスのことを言うのではないでしょうか。
では、言葉などない方がいいのか。然り、なしでも済むのなら、ないに越したことはないでしょう。例えば、痴情のもつれで相手に何か言われたとしても、一番いいのは黙って相手を見つめるだけで終わらせることなのかも知れません。それでも、次善の策として人間は言葉をかけずにはいられない。それだけ、人間は弱いのだと思います。けれど、それでいい。
今週のやぎ座もまた、何と向かえど相手を変えようとするのではなく、まず自分自身が変わっていくことをゆるすことで「戀」をほどいていくべし。
やぎ座の今週のキーワード
ほどかれた胸のカタルシス