やぎ座
物語を人間化にあたって
こちらは6月21日週の占いです。6月28日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
まずはでんと構えてみよう
今週のやぎ座は、「明け易き戸を焦したる放火かな」(増永徂春)という句のごとし。あるいは、ありえないような出来事ほど受け入れていこうとするような星回り。
昭和初期のころの作。大意としては、すっかり明けるのが早くなってきた或る夏の夜、家につけ火をした者がいたが、それは大した火事にもならず、ただ戸を少しばかり焦がしただけであったというもの。
なんとも物騒な話ですが、どこか軽みがあるために、すんなりと受け止められてしまいます。放火されても、戸が少し焦げただけと言って、別にそれを咎めるでもなく軽く笑っているような印象さえあります。
同じように大事件を軽く見るのでも、昨今の政治家のように無責任な印象を受ける場合もあれば、掲句のようにむしろ人間としての太く揺るぎないふところの大きさを感じさせる場合もあるのですから、不思議です。
おそらく、これは作者の特質というよりも、当時の社会がもっていた大らかさに依る部分が大きかったように思いますが、それでも現代ではもはやこうした句がぽんと詠まれることはほとんどないではないでしょうか。
25日に自分自身の星座であるやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、さながら肥え太った満月のように、いつもより少し気を大きく持ってでんと構えていくべし。
すくい取るべきものを見出すために
起こった瞬間においては、その価値や意味が分からない出来事があります。それは人の心の奥深くに入り込み、長い時間をかけてかたちをなし、再び意識の表面に浮上してきたところで、ようやくすくい取られていく。
それは誰かに言われた言葉だったり、目にした光景だったり、あるいはあるひとりの人物の影響そのものだったりと、人によってまちまちですが、私たちのこころには大抵はどこかでそういうものが2、3ひっかかっていては、すくい取られる瞬間を待っているのではないでしょうか。
須賀敦子の文章はどこか、そんなかすかな記憶の底からそっとすくい取られたようにして綴られていますが、例えば下記の箇所などは今週のやぎ座の人たちがなすべきことを簡潔に暗示しているように思います。
「線路に沿ってつなげる」という縦糸は、それ自体、ものがたる人間にとって不可欠だ。だが同時に、それだけでは、いい物語は成立しない。いろいろ異質な要素を、となり町の山車のようにそのなかに招きいれて物語を人間化しなければならない。
やぎ座の今週のキーワード
須賀敦子『霧のむこうに住みたい』