やぎ座
宣言と刻印
これこそが希望
今週のやぎ座は、「朝日煙る手中の蚕妻に示す」(金子兜太)という句のごとし。あるいは、ささやかな未来への希望を明確に打ち出していこうとするような星回り。
作者が戦地から命からがら帰国し、その翌年結婚した際に詠んだ句。当時は新婚旅行もままならない頃でしたから、故郷の農道を歩いて旅行気分を味わっていたのだとか。その途中、農家の飼屋に立ち寄ったときに生まれたそうです。
掲句は「おい、動いてるぞ」と驚きを共有しているところとも、「これが蚕だ」と妻に教えている場面とも受け取れますが、蚕が日常からすっかり縁遠いものとなった現代であれば前者であったのかも知れません。ただ、「示す」という一語にみなぎる自負を鑑みれば、後者のようなニュアンスであったように思えます。
いずれにせよ、煙るように立ち込める朝日が二人の初々しい姿をより神聖なものとして浮かび上がらせています。つらかった戦争を経て、やっと来るのであろう新しい時代への力強い希望が、この土地の暮らしを支えてきた貴重な蚕に託されたのでしょう。
27日にやぎ座から数えて「希望」を意味する11番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの日常を支えてくれている力の価値や可能性を改めて再発見していくことができるかも知れません。
私心なき志を
例えば、アメリカのイギリスからの独立に多大な貢献をし、アメリカを独立へと突き進ませる助産師の役割を果たしたトーマス・ペインの『コモン・センス』(1776)というパンフレットは、いくつかの出版社で断られた後、ようやく刊行にこぎ着けたのだと言います。
大きな社会運動というものは、日常の利害を超えたより上位の価値や正義を示すのでなければ決して成立しませんが、著者はこのパンフレットで次のように述べたのです。
「アメリカの主張はほとんど全人類の主張である。(中略)それは一地方の事件ではなく、世界的な事件である。すべての人類愛に燃える者がこの事件に関心を抱き、温かい目でその成り行きを見つめている。」
さらに著者は自分の名前を出さずに本書を刊行しました。作者の意図を徹底的に非個人化されたものとすることで、可能な限り主体を大きくしようとした訳です。結果、本書は異例なまでのベストセラーとなり、総計50万部が印刷されたとされています。
同様に、今週のやぎ座もまた、どこまで私心のない理念や意図にコミットできるか、またそれを周囲に伝えていくことができるかが、大きく問われていくことになるでしょう。
今週のキーワード
決然と言い切ること