やぎ座
わたしの複数性
※2021年3月1日~3月7日の週間占いは、公開を延期とさせていただきます。(2021年2月28日追記)
自分自身の旅人
今週のやぎ座は、「宇宙のように 複数であれ」というペソアの言葉のごとし。あるいは、自分自身が通りすぎていくのを見ていく私であるような星回り。
フェルディナンド・ペソアという詩人は、南アフリカで育った後、20歳ぐらいの時に父の祖国であるポルトガルに帰り、リスボンの貿易会社で手紙の翻訳などをして地味な生涯を終えたといいます。
ここで大事なことは、彼はもともとはもっぱら英語でものを書き、大学入試の際には英語のエッセイで最優秀賞を取るほどだったにも関わらず、ポルトガルに帰ってからはポルトガル語だけで書いたということ。
これはただバイリンガルで優秀であるということ以上に、ふたつの異なった言語を持つことでペソアが自身のアイデンティティをどう成立させていったのかということ。おそらく、ペソアはそこで自分自身が引き裂かれていくのを感じつつも、同時にそこに何らかの解放を感じていったのではないでしょうか。
「私は自分自身の旅人/そよ風のなかに音楽を聞く
私のさまよえる魂も/ひとつの旅の音楽」
「私とは、わたしとわたし自身とのあいだのこの間である」
27日にやぎ座から数えて「広大なインターバル」を意味する9番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、他ならぬ私が自分自身から離れていくのを感じていくことになるでしょう。
異名(ヘテロニム)
ペソアは、髪の毛から分身を作り出した孫悟空も顔負けの「分身」づくりの名人でもあり、自分のほかに名前もライスストーリーも異なる詩人を3人もつくりだし、文体までもずらして、それぞれの詩人になりきって詩集を発表していきました。
「詩人はふりをするのだ/そのふりは完璧すぎて
ほんとうに感じている/苦痛のふりまでしてしまう」
この種のしかけは「異名(ヘテロニム)」と呼ばれ、例えば異名のひとつであるアルヴァロ・デ・カンポスは次のような詩を残しています。
「いまのぼくは なれるはずのなかったぼくで
みずからなることのできたぼくではない。」
今季のやぎ座もまた、そんな仮想された人格との触れ合いのなかで文字通り「触発」されていくことになるかも知れません。
今週のキーワード
「ふりをすることは、自分を知ることだ。」