やぎ座
自分自身を捧げているか
強靭な個性
今週のやぎ座は、「天に雲雀人間海にあそぶ日ぞ」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、独自の個性を開発するべくあえて我を埋没させていくような星回り。
作者が33歳のときの句。各地の門人や知人を訪ねて回る挨拶と修行の旅にもようやく慣れてきた頃合いで、この旅行中、作者は漢詩や和歌などの古典を貪欲に勉強し取り込んでいこうとしていたようです。
「天」や「人間」という堅い言葉遣いも、その対比も含めて、ようやく俳諧の道で食べていけるようになったことへの気負いや、年齢的な若さが現れているように思います。
ここで作者はアカデミックな振る舞いを俳句において実践してみせている訳ですが、どうにもそれがなまぐさい。おそらくそれは、観念的になり切れないどころか、彼自身、かしこまっているようで実はどうしたって百姓としての地肌本意になってしまっているのでしょう。
ある意味で、自分の本質に対して開き直った上で、ないものねだりをしているのだとも言えますが、これも彼の人一倍つよい好奇心と精力の賜物であり、そうであったからこそ、強靭な個性を有した俳句を生涯に2万句近くも詠むことができたのかも知れません(同じ江戸三大俳人のうち芭蕉は約1000句、蕪村は約3000句)。
2月18日にやぎ座から数えて「創造性の発揮」を意味する5番目のおうし座に位置する天王星(革新)が土星(伝統)と90度の角度をとって激しくぶつかりあっていく今週のあなたもまた、そんな作者のようにあえて貪欲に過去の叡智の積み重ねに学んでいくなかで自らの個性を磨いていくべし。
天に笑ってもらうには
句や歌を見聴きする人が心を奪われるのは、歌い手がそこで自分自身を捧げているからであって、その逆に、何かを器用に自分に従わせているからではありません。
掲句にしても、これは上手な俳句とは言えません。しかし作者のおのれを俳句の道に捧げんとする姿勢が、かえって小林一茶という個性を光らせている。それがこの句のいのちです。
その意味で、他人と器用さを競っているような人は嘲笑しても、そんな作者のことを天は決して馬鹿にしませんし、むしろ「こいつめ」と笑って受け入れてくれるでしょう。
すなわち、つまらない自分やがんじがらめの自我を放りだした時に不意に出る「軽み」にこそ、個性というものの秘訣はあるのかも知れません。今週のやぎ座は、人に笑われることを怖れず、何よりも天に笑ってもらえるよう、心がけてみましょう。
今週のキーワード
捧げているからこその軽み