やぎ座
死出の旅路へ
死の疑似体験
今週のやぎ座は、パラレルワールド移行スイッチを踏んでしまう旅人のごとし。
それは、「船に乗る」ということ。かつて主要な交通手段と言えば、車や電車ではなく船であり、江戸は無数の水路や運河が張り巡らされ、それぞれの町が島々のように浮かんで描かれた水の都市でした。
ただし、川や海というのは、それ自体が異界への境界であり通路でもあり、旅人が徒歩から「船」に乗り換えることを、三途の川をまつまでもなく、ついに生きては帰れないかも知れない死出の旅路へとつくことを意味したのです。
今週のあなたに必要とされているものは「死」の疑似体験。つまり、どこか見知らぬ外の世界へと足をすくわれかねない、あやうい境界線上をゆく「境界人」となることが求められていきます。
そこで自らの抱えている内面的・霊的な問題に真正面から向き合っていくか、逃避的ファンタジーを生きるか、そのどちらのモードに切り替わるかはあなたの日頃の心がけ次第でしょう。
境界人となるには
芭蕉の「おくのほそ道」の行程もまた、時を越えて異界へ旅立つ死出の旅路そのものでありましたが、庵のあった深川から最初の目的地である日光へ向う出発点までを、芭蕉はやはり船で移動しています。
そして現在の千住大橋橋詰テラスの記念プレートには、芭蕉が旅立っていく後ろ姿を描いたイラストの横に、「おくのほそ道 旅立ちの地」と題して芭蕉の言葉が引用されています。
「千じゅと云所にて 船をあがれば、前途三千里の おもひ胸にふさがりて、 幻のちまたに離別の泪そゝぐ」
そして「おくのほそ道」では、この引用部分の後に、「ゆく春を鳥啼魚の目は涙」という句が詠まれている。死出の旅路につくということは、もうこれまでの世界には戻れないということであり、自分が変容してしまうということです。その別れを、空を飛ぶ鳥となり、川を泳ぐ魚となって嗚咽し、涙し、慟哭している。
そういう、ただの近代的個人をこえた相違相関の共鳴空間に身を置いていくことで、はじめて人は「境界人」になっていける訳です。今週のあなたは、多かれ少なかれそうした変容のための儀を迎えていくのだと言えるでしょう。
今週のキーワード
泪をそそぐ